May 24, 2021

【子育て】梅雨入りが早かったので、気を付けて欲しいこと

今日は、子育てに関して、

今気を付けて欲しいことをお話しますね。

小学校の現場にいて、子供たちがイライラする原因の一つが

【外で遊べない】

です。

休み時間に運動場で遊べないことは、子供たちにとってかなりのストレスになります。

梅雨時には、おのずとこの状況が起きます。

それに加えて、5月病のような状況があるので

世の中のストレスのしわ寄せが

子どもたちにいってしまいます。

なので、

「子どもたちがぐずったり、機嫌が悪くなったりするのは当然だ」

という前提で、子供たちと接してほしいのです。

子どもたちは、

それでも頑張って、学校へ行き、勉強しています。

ぐずったり、イライラしていたら

「それは天気のせい」

くらいに考える場面があってもいいと思います。

 

子どもたちは

言語化するのが苦手なので

態度に現れてしまいます。

しっかり、寄り添って、労うことで

子どもたちのストレスは軽減するはずです。

 

この時期、気を付けて欲しいことでした。

 

【参考YouTube】

佐久間賢志のYouTubeより

「子供が学校に行きたくないといったら?」

 

March 29, 2021

『ハヤトの不思議な色鉛筆』の色ごとにタイトルを付けました!

こんにちは。

1話~12話まで、書けましたので

それぞれのお話にタイトルを付けました!

そして、YouTubeで、今後の思いを話しています!↓

https://youtu.be/y2f73A8loPo

 

ハヤトの不思議な色鉛筆 さくまけんじ

   ちょうちょ     【赤】  

   麦茶うめぇ~    【緑】  

   おばあちゃんの扇子 【だいだい】

   トカゲのしっぽ   【黄緑】

   ゴリ先生      【茶】

   ケンジの初恋    【ピンク】

   海の底から花火を  【うすだいだい】

   宇宙人を救出せよ! 【青】

   サツマイモ     【紫】

   見える演奏会    【水色】

   父さんと釣りへ   【黄色】

   クリスマスパーティー【黒】

   あとがきに変えて

March 19, 2021

ハヤトの不思議な色鉛筆 12話まで書けました!

申し訳ございません。

私に、3分55秒の時間をください。

どんな経緯でこの物語が始まったか

YouTubeでお話しています。

https://youtu.be/m2eMCdit31k

そして、

12話目、読んでみたいと思われた方は

メッセージやコメントなどで

その旨お伝えください。

作品をPDFにてお送りします。

 

クラスの子たちの感想は

「切ない」という意見と「感動した」という意見に分かれました。

 

いずれにしろ

応援よろしくお願いします。

March 16, 2021

ハヤトの不思議な色鉛筆(11:黄色) 令和3年3月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第11話になりました。

今回の色は、黄色です。

このシリーズは(ハヤトの不思議な色鉛筆)は

僕が担任するクラスのみんなに

ちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソード「心温まるお話」を子供目線で書いています。

今回は、お父さんと釣りに行くお話。

ゴールまであと1話!(でも実は、もう書けてるの、、、)

あーこの楽しい感覚が終わっちゃうのねぇ。

前作までのお話のリンクを張っておきますね。

ご笑覧ください。

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

ハヤトの不思議な色鉛筆(6:ピンク)

ハヤトの不思議な色鉛筆(7:うすだいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(8:紫色)

ハヤトの不思議な色鉛筆(9:水色)

ハヤトの不思議な色鉛筆(10:黄色)

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ハヤトの不思議な色鉛筆(11)  さくまけんじ

 

ハヤトの教室から見える景色もすっかり冬になってしまいました。休み時間には、教室の南側の陽の当たる場所で、男の子たちがひなたぼっこをするような季節です。

「なあなあ、ハヤト。12月に釣れる魚って何があるん?」

ケンジが、ハヤトに聞いてきました。

「そうじゃなぁ。磯とかで釣るんなら、真鯛とか、メバルとかかなぁ。」

ハヤトは、腕組みをして真剣に考えながら答えました。

「でも、この時期の釣りって寒いんじゃろ?」

「いやいや。寒いんは当たり前!でも、それよりも釣りの楽しさの方が勝つわぁ。あはははは。」

ハヤトは、ケンジとこうして釣りトークをするのがとても好きでした。

「ハヤトは、ええよなぁ。お父さんに釣りに連れて行ってもらえるなんて、うらやましいわぁ。」

「まあ、父さんはマジじゃけんなぁ。レジャーの要素はあんまりないでぇ。まあ、そこがええんじゃけどな。」

「永遠の少年なんじゃな。」

「そうそう!あははは。」

二人は大声で笑いました。

「今度の日曜日も、真鯛釣りに行くんよ。また、釣れたらケンちゃんちに持っていくわ。」

「まじか!?期待しすぎずに、待ってるわ。」

「なんじゃとぉ!釣ってくるわい!」

「あはははは。」

外は冷たい風が吹いていますが、ハヤトもケンジもとても幸せそうです。

 

土曜日の晩、ハヤトはなかなか寝付けられませんでした。明日の真鯛釣りのことが気になって、気になって仕方なかったのです。潮は、13時が満潮なので、勝負はお昼過ぎまで。お父さんは、「出発は6時」と言っていたから、5時過ぎには起きなきゃいけない。釣り場までは、車で一時間ほど。いつも立ち寄るコンビニで買うのは、お茶とおにぎりとスナック菓子。釣り場の手前にある釣具店で買うのは、タイムシか?本虫か?これは、父さんのお財布と相談だろうな。磯からの投げ釣り。アタリを合わせる感覚。リールを巻き、真鯛との格闘。海面にキラキラと光る腹。父さんがタマで、真鯛をすくいあげる。ここまでは、いつもどおりの釣りの前日。しかし、今日のハヤトは、いつもと違っていたのです。ハヤトは、ケンジに言った「釣れたらケンちゃんちに持っていくわ。」という言葉に、自分自身がプレッシャーを感じてしまっていたのです。

「ああは言ったものの、釣れんかったら、恥ずかしいわなぁ。でも、確実に釣れるわけじゃないし。どうしたらええんじゃろうなぁ。」

ハヤトの頭の中に、ふとあの色鉛筆のことがよぎりました。

「こんなときに助けてくれるんよなぁ・・・。いやいや、ここは実力で・・・」

ハヤトの心は、助けて欲しい気持ちと自分で何とかしたいという気持ちの間で揺れていました。

「そういえば、初めて色鉛筆で描いたのが、釣りに行ってたくさん釣れた魚の絵じゃったもんなぁ。あのとき、なんか違うなぁって感じたけん、今回も魚の絵を描いたりするんは、やめとこう。」

そう思って、色鉛筆の方へ目を向けると心なしか、色鉛筆ケースが寂しそうに見えました。

「さみしいんかい!」

ハヤトは、色鉛筆のケースへ手を伸ばしました。そして、12色の色をひとつずつ眺めながら、いろんなことがあったなぁと思い出にひたっていました。

「今まで、不思議なことが起こっていない色は、どれかなぁ・・・」

そんなことを思いながらチェックをしていたのです。

「黄色と黒の二本じゃな。」

ハヤトは、さっきまでの大きな鯛を釣るイメージトレーニングのことなどすっかり忘れて、色鉛筆をなでていました。すると一瞬、黄色の色鉛筆が光ったように見えました。

「おっ、黄色か?」

ハヤトのその声に返事をするように、黄色の色鉛筆が今一度光りました。

「おぅ。いや、明日の釣りのお願いをするつもりは、無いんよ。ただ、なんとなく不思議なことが起こったらいいいなぁと思っただけなんよ。ほんとに、ほんとに。」

ハヤトは、なんだか言い訳がましく、よそよそしく色鉛筆に話しかけていました。そんなハヤトを知ってか知らずか、黄色の色鉛筆はむくっと立ち上がり、とことことスケッチブックの方へ歩いてゆき、その上でトントンと二回ジャンプしました。

「えっ?スケッチブック開いてほしいの?」

ハヤトがたずねると、黄色い色鉛筆はペコリとお辞儀をしました。

「おぅ、おぅ。」

ハヤトは、早速、まだ何も描いていないページを広げました。すると、黄色の色鉛筆は、フィギアスケートの選手が氷の上でダンスするように、シャーシャーと音を立てて、スケッチブックの上を行ったり来たりし始めました。色鉛筆の残像が光の残像のように見えて、スケッチブックの上は幻想的な世界になっています。ときおりジャンプをしていたり、くるくると回ったりもしています。

「ほんま、フィギアスケートみたいじゃわぁ。」

ハヤトは、その様子に見とれていました。やがて、その幻想的な世界はスピードと光が弱まり、ただのスケッチブックと1本の色鉛筆に戻っていました。

「あっという間だったなぁ。」

そう言いながら、ハヤトはスケッチブックをのぞき込みました。すると、そこには、黄色のイモムシが描かれていました。

「なんでやねん。」

思わずイモムシの絵にツッコミを入れてしまいました。すると、

「うふふふふふ。」

いつもの女の子の笑い声が聞こえました。

「明日、釣りに行くから、タイムシや本虫みたいに、釣りのエサとして描いたんじゃろうかぁ・・・。」

女の子の笑い声も気になっていましたが、イモムシをエサとすることで自分で自分を納得させることで精いっぱいでした。

 

「ハヤト!そろそろ起きろよ!」

翌朝、ハヤトはお父さんの声で目が覚めました。いろいろ考えているうちにいつの間にか寝てしまっていたようです。

「朝ごはん用のおにぎりはあるから、先に着替えしたらええ。外は寒いけん、しっかり着ぃよ。」

まだ目が覚め切っていないハヤトをお父さんがまくしたてます。

「了解!了解!」

ハヤトは、そう返事をすると、むくっと起き上がり着替えを始めました。パジャマを脱いで、肌着一枚になったとき、ぶるっと身震いしました。

「うわっ!さむっ!」

思っていた以上に朝は冷え込んでいました。すっかり着替えをすませたあと、いつもは持って行かない色鉛筆とスケッチブックを持っていこうかどうか迷いました。

「荷物になるけんなぁ・・・。でも、まあ、車に置いてたらええか。」

と釣りグッズの入ったバッグの中に、スケッチブックと色鉛筆を入れました。

「父さん、着替えすんだでぇ!」

姿が見えないお父さんに向かって大きな声で言いました。

「おおぅ。トイレだけ行っとけよぉ。それすんだら出発しよう。」

家の外からお父さんの返事が聞こえました。どうやら、車にエンジンをかけて、出発する準備をしながら、寒い車内を温めているようです。

「さ、準備できたでぇ。」

ハヤトは、くつをはき替えて、車までやってきました。まだ、外は真っ暗です。

「おう。じゃあ先に乗ってたらええ。母さんやココアはまだ寝てるじゃろうけん。電気消して、戸締り確認してくるわ。」

ハヤトのお父さんはそう言うと、今一度家の中に入っていきました。ハヤトは、お父さんが家に入ったのを確認して、スケッチブックを開いてみました。

「昨日のイモムシちゃんは、・・・。」

そんなことを言いながら、ページをめくりイモムシのページを開きました。

「おや?」

ハヤトの目には、そのイモムシが少し大きくなっているように見えたのです。

「気のせいか?それとも、眠たいからか?」

そう思ったときです。

「うふふふふ。」

いつもの笑い声が聞こえたのです。

 

家から釣り場までの一時間は、いつもお父さんが、釣りにかける思いを語ってくれます。沖縄の何とかっていう島まで、マグロを釣りにいった話やそのとき大きなマグロが釣れた話、一晩中夜釣りをして一匹も釣れなかった話など、武勇伝のようでもあり、笑い話でもあるような話を「がははっー」と笑いながらするのです。ハヤトは釣りに行くたびに、その話を聞いたり、いっしょに笑ったりするのをとても楽しみにしていました。ところが、今日のお父さんは、家を出てからあまり話をしません。ずっと口をつむったままです。

「父さん、体調悪いん?」

ハヤトは、お父さんが握ってくれたおにぎりを食べながら、思わずたずねてみました。

「いや、そんなことはないんだけどな・・・。」

お父さんが、ゆっくり答えました。

「じゃあ、うんこ行きたくて、がまんしてるん?」

「いや、うんこはもうたっぷり出してる。」

今度もゆっくり答えます。

「じゃあ、なんでだまってるん?」

ハヤトは、おそるおそる聞きました。するとお父さんは意を決したように、口を開きました。

「ハヤト、お前、もう10才になったよなぁ。」

お父さんの話は、意外な質問から始まりました。

「うん。10月に10才になってるよ。」

お父さんの目は、魚の話をするとき以上に真剣になっているように感じました。ハヤトは、何の話が始まるのかと少しワクワクしていました。

「今から、父さんが10才のときの話をするわな。」

「うん。」

ハヤトは、「よくよく思い出してみると、父さんが子供のときの話って、意外と聞いてないな」と思いました。

「はっきり覚えていることと、あんまり覚えていないこととあるんじゃけどな。夏休みに入る前に、机の中に色鉛筆がケースごと入ってたんよ。誰の?誰の?ってまわりに聞いても、持ち主がおらんから、それ家に持って帰ったんよ。」

ハヤトは、ところどころで「わおっ!」とか、「え~っ!」とか声が出そうになりましたが、ぐっとこらえました。

「でな、その色鉛筆が、勝手に絵を描いたり、その絵が飛び出してきたり、いろんなことがたくさんあったんよ。」

ハヤトは、うんうんとうなずいて、あいづちを打っていました。

「そんなこと信じられるか?」

お父さんがたずねてきました。

「うん。そんなことあったらええなぁ、って思うわ。」

ハヤトは、とっさにそう答えてしまいました。

「そっか、でな・・・。そんなことがあると、いつも女の子の笑い声が聞こえるんよ。うふふふって。」

「ファンタジーじゃなぁ。」

ハヤトは、自分の驚きを隠すようにそんな合いの手を入れました。

「で、どうなるかというと、結局その笑い声の主が、二学期から転校生としてくるのよ。」

「わおっ!すげーじゃん!」

このときは、がまんできず声をだしてしまいました。

「ほのあっていう名前で、不思議な女の子だったわぁ。いつも、うふふって笑うんよ。」

ハヤトのドキドキは止まりません。

「で、その先どうなるん?」

ハヤトがそうたずねたとき、いつも立ち寄るコンビニに着きました。

「お、コンビニに着いたけん、続きはまたじゃな。大事なことはまだ言ってないし、、、。」

「えー。」

いいところで話が途中止めになったので、ハヤトは、少しがっかりしました。

「まあ、外は寒いけん、車で待ってろ。いつものおにぎりと何かお菓子があったらええんじゃろ。父さんが買ってくるわ。」

お父さんは、そう言って車を降りて、お店の方へ歩いていきました。お父さんが、ドアを開けて降りるとき、一瞬外の冷たい空気が車の中に入ってきました。それでもハヤトは、さっきのお父さんの話に興奮したままでした。

「すごいよな。すごいよな。」

そんなことをつぶやくと、

「うふふふふ。」

と、女の子の笑い声が聞こえました。ハヤトは、スケッチブックを開いて、イモムシの様子を見ることにしました。

「おー!やっぱり!」

イモムシは、明らかに大きくなっていました。黄色で描いたイモムシですが、ところどころキラキラと黄金色に光っています。

「うふふふふ。」

もう一度、女の子の笑い声が聞こえたとき、お店からお父さんが出てくるのが見えました。ハヤトは。あわててバックの中にスケッチブックを押し込みました。そして、何事もなかったかのように、おにぎりを食べ始めました。

「外は、寒ぃーのー。」

そう言いながら、お父さんは車に乗り込んできました。また、外の空気がふわっと車の中に入ってきました。

「寒っ!」

ハヤトの体がブルっと震えました。お父さんは、買ってきた缶コーヒーで両方の手のひらを温めています。そして、しばらくしてからコンビニを出ました。もう釣り場までにそんなに時間はかかりません。釣具屋でエサを買えば、すぐ釣りがスタートします。ハヤトは、お父さんの続きの話が聞きたかったのですが、家を出てすぐのときのように、お父さんは口をつむったままです。ときどき缶コーヒーをすすりながら、ふぅーっと深呼吸しています。そうこうしていると、釣具屋の前まで来ました。

「エサ買ってくるわ。また、待っとき。」

お父さんは、そう言うとそそくさと車から出ていきました。ハヤトのさっきまでのワクワクが、少しずつしぼんでいきました。ハヤトは、もう一度イモムシの様子を確かめようと、スケッチブックを開きました。黄金色の光の粒が、さっきより増えていて、イモムシも明らかに大きくなっています。

「うふふふふ。」

また、女の子の声がしました。

「ほんま、たのむわぁ~。」

ハヤトは、声の主に向かって声をかけてみました。

「うふふふふ。」

しかし、笑い声が返ってくるだけでした。

「はい、はい。」

ハヤトは、どうしてよいかわからず、笑い声にあいづちを打って、スケッチブックを閉じました。閉じた勢いで、ふわっと光の粒が車の中に広がりました。光は静かに消えていきましたが、そのあとでどこかでかいだことのある花の香りが広がりました。

「外は真冬なのに、春のにおいだなぁ。」

ハヤトが、そうつぶやいたとき、車のドアが開いて、

「よし!これで準備万端だ!」

と、お父さんが帰ってきました。車の中に冷たい空気が流れ、さっきまでの春の香りが一瞬にしてなくなりました。

「ハヤト!今日は、釣れそうな予感しかせんわ!大漁間違いなし!」

ハヤトは、お父さんが釣りモードに入ってしまっていることがわかりました。口をつむって何か考え事をしているお父さんはもういません。釣りを楽しむ少年のようないつものお父さんです。

「まあ、父さんは、エサ買ったらいつもそれじゃん!」

「わはははは。」

二人は、大声で笑いました。

 

釣り場に着くころには、お日様が顔を出していて、家を出発するときより寒くありませんでした。北風もおさまっており、絶好の釣り日和といった天気になっています。二人が目指すポイントには、先客もなく、いい所で釣りができそうです。

「ハヤト!今日は、ほんとに釣れそうな気がするわ。」

お父さんの声が、ワントーン高くなっています。

「うん。僕もそんな気がする。」

ハヤトもそう返事しました。二人は、大急ぎで準備をして、釣り糸を垂らしました。ほおに当たる風は冷たかったはずなのですが、やさしい陽の光とリズムよく聞こえる波の音が、その寒さを感じさせませんでした。しばらく、アタリもなく、穏やかな時間が続いたので、ハヤトは色鉛筆のことをお父さんにたずねてみることにしました。

「なあ、父さん。車の中でしてた話じゃけど、その色鉛筆ってどうなったん?」

お父さんは、釣り竿の先をじっと見つめたままです。

「おお、それな。最終的にどうなったかと言うと・・・。」

そこまで言うと、ハヤトの方に目を向けました。

「正直な話・・・、忘れた。」

そういって、ニヤっと笑いました。

「なんやねん!」

と、突っ込みましたが、「ほんとに忘れたんだろうか?忘れたことにしてるんだろうか?」などと、ぐるぐる頭の中で考えが回りま始めました。

「ただな、そのときから、一つできるようになったことがあるんよ。」

目線を釣り竿の先に戻して、話はじめました。

「何?何?」

ハヤトの目が、また輝き始めました。

「何か図を描いたいり、色を付けたりするのが、めちゃくちゃ得意になったんよ。なんて言ったらいいかわからんのじゃけど、自分が描いているようで、自分が描いていない感じ。何かに描かされているような感じなんよ。」

ハヤトは、自分の釣り竿の先を見るのも忘れて、お父さんの目をじっと見ています。

「で、初めは不思議だったんだけど、その“できる”とか“描ける”を受け入れて、その不思議な力を人のために使おうと思ったんよ。そしたらもっと“できる”とか“描ける”とかが、増えてきたんよ。」

「へー。」

ハヤトは、お父さんからそんなことを聞けることが意外でした。釣り好きで、いつもビールを飲みながらお笑いを見ているお父さんしか知らなかったからです。

「今、してる仕事もその力があってこそなんよ。ハヤトも何かできることがあったら、人のために使おうって考えたらええで、ますます、“できる”に磨きがかかる。磨きがかかるっていうか、ますます自分じゃないところで、させられてる感じになる。」

そのときです。ハヤトの釣り竿にコンコンコンとアタリが来ました。

「ハヤト!さお!さお!」

お父さんの声に、びっくりしながらも、釣り竿をぐいーっとひきつけ、思い切りリールを巻きました。ブルブルブルと、釣り糸の先で大物が抵抗するが伝わってきます。

「父さん!これたぶんめちゃでかいで!玉アミたのむわ!」

ハヤトは、大きな声で頼みました。ハヤトは、竿を引きつけてはリールを巻き、引きつけては巻きを繰り返します。お父さんは、大きな玉アミをかまえたまま、水面をうかがっています。

「ハヤト!あせるな!」

「うん!」

釣り竿がしなって、海の方に持っていかれます。ハヤトは、わきをしめてぐっと力を入れて、自分の方に釣り竿を引きつけます。ぐぐぐぐぐっつという見えない敵の抵抗が、体全体に伝わってきます。

「おー、鯛じゃ、鯛!」

海面をじっと見ていたお父さんが、大きな声で言います。ハヤトは、竿を持っていかれないように必死でしたが、海面に目をやるとキラキラと光る白い腹が見えます。お父さんが、玉アミを伸ばして、大きな真鯛をすくい上げました。すくったとたんに、ハヤトの持っていた釣り竿は軽くなりました。

「やったー!」

ハヤトは、大喜びしました。お父さんは、早速にメジャーで大きさをはかり始めました。ハヤトは、40㎝ほどの真鯛を釣り上げたのです。

「おー、やったのう!」

お父さんも興奮しています。ハヤトに真鯛を持たせて、ポーズをとらせています。どうやらスマホで写真を撮って、お母さんに送っているようです。そして、ひとしきり写真を撮ったあと、クーラーボックスの中に丁寧にしまいました。

「ささ、勝負は昼までじゃけん、次の獲物へ気持ちを切り替えよう!」

お父さんは、そう言うと、再び釣り竿の先に目を向けました。

「ほんまじゃ、ほんまじゃ。ケンちゃんとこに持って行かんといけんからなぁ。」

ハヤトも、仕掛けを作りなおして釣り糸を海の中に垂らしました。

 

この日は、いいペースで釣果がありました。お昼までに、30㎝以上の真鯛が3尾釣れました。そのほかにも、10㎝くらいの小さな鯛が何尾か釣れましたが、大きな鯛が釣れていたので、海に返してやりました。潮が引き始めるくらいの時間に、買ってきたおにぎりを食べました。釣果が上がったために、お菓子を食べる暇はありませんでした。

「ハヤト、そろそろ帰るぞ。今日は、よかったな。いいのが釣れて。」

お父さんにそう言われて、ハヤトは帰る支度を始めました。

「今日は、父さんの予感が当たったなぁ。釣れる気しかせんって。」

「ほんまじゃぁ。あははは。」

お父さんは、大きな声で笑います。

「先に、車に行って、荷物積んどいてくれや。もうちょっと片づけしてから行くけん。」

お父さんは、そう言うと車のカギをハヤトに渡しました。ハヤトは、自分の持ってきた荷物と釣り竿をもって、車の方に歩いていきました。12月でしたが、陽の光は温かく、寒さを少しも感じませんでした。ハヤトは、車に荷物を詰め込み、助手席に座り、買ってきたスナック菓子を食べることにしました。

「お、そうそう。」

バッグを開けたときに、底の方に追いやられたスケッチブックが目に入りました。

「イモムシちゃん、どうなったかなぁ。」

そう言って、スケッチブックを開きました。すると、黄金色の光は少しもなく、黄色と言うよりは少し茶色がかったものが目に飛び込んできました。

「なんだこりゃ?」

よくよく見ると、イモムシは、さなぎになっていました。スケッチブックには、さなぎの絵が描かれていたのです。「この流れで行くと、家に着くころにはチョウだな。」そんなことを思っていると、

「うふふふふ。」

と、女の子の笑い声が聞こえました。

「はい、はい。」

と、言ってパタンとスケッチブックを閉じました。さっきのような、光の粒は今度はでません。ハヤトは、スケッチブックをバッグの中にしまい、お菓子を取り出し、食べ始めました。

「おー、お待たせ。」

そう言いながら、お父さんが車のそばまで帰ってきました。素早く荷物をトランクに乗せると、お父さんが乗り込んできました。

「さ、帰るでぇ。」

お父さんは、そう言って車のエンジンをかけ、出発しました。ハヤトは、となりでムシャムシャお菓子を食べています。

「そういやぁ、ハヤト。一個思い出したわ?」

突然、お父さんが話はじめました。

「何、思いだしたん?」

ハヤトは、お菓子を食べる手を止めました。

「色鉛筆のことよ。どうして、そうなったかは、これも覚えていないんだけど、チョウの話。」

「うん、うん。」

ハヤトは、びっくりしながら相づちを打ちました。

「チョウってさ、チョウになる前は、サナギじゃん。で、さなぎの前はイモムシじゃん。このイモムシって言うのが大事なんよ。」

「どゆこと。」

お父さんは、咳ばらいをしてから、少し声色を変えて話はじめました。

「イモムシは、自分がチョウになることを知らない。知らないから、イモムシであることを嘆く。嘆くんだけど、動きを止めてさなぎになる。で、気が付いたら美しいチョウになっている。この流れには、いろんな教えがあるんよ。」

ハヤトは、まだ首をかしげています。

「ハヤトって、10才じゃん。その頃って、自分がチョウになることに気が付かないんよ。どんな能力があるかもわからない。わからないから嘆いたり、みんなと同じことしないと不安になったりするわけ。でも、貪欲に自分のやりたいこととかできることを見つめていくとそれに気が付くんよ。気が付いて、人のために使おうってなったら、動きが止まるわけ。どう使おうって悩んだり、人と違う動きになるから、そのことで不安になったり。」

「じゃあ、それがさなぎってこと。」

「そうそう。そのさなぎの時間って結構長いのよ。周りに認められたり、評価されたりするまでには、時間がかかるんよ。さなぎの時間をぐっとこらえて我慢したら、きれいなチョウになるってわけ。」

「じゃあ、父さんは、そのことを色鉛筆に教えてもらったん?」

「たぶんな。教えられたんか、自分で気が付いたんかはわからんけど、色鉛筆が関わってたってことは覚えとるんよんぁ。」

「へー。」

ハヤトは、自分は何を感じて、何を学んだのかなぁと思っていました。

「で、ハヤトのそばにもそろそろ色鉛筆が来てないかなぁって思って。」

ハヤトは、ドキッとしました。すでに、自分のまわりで起きていることを父さんに知られているかもしれないと、思ったのです。

「なんで、そんなこと思うん?」

ハヤトは、思わず聞いてみました。

「いやぁ。なんか同じことをじいちゃんに言われたことがあって、実際そうなったけん。ハヤトにも届くんかなぁと思って。でも、どう始まって、どう終わったかは、覚えてないんよなぁ。」

「覚えてないんかい!」

ハヤトは、お父さんに突っ込みを入れました。

「うふふふふ。」

女の子の笑い声が聞こえました。

「これこれ、この笑い声が聞こえてたんよ。ハヤトには、聞こえんか?」

お父さんが言いました。

「え!?」

ハヤトは、どう答えていいかわからず、だまってしまいました。

「まあ、ええわ。きっとハヤトにもそのうち不思議な力に気が付くときがくるってこっちゃ。がはははは。今日は大漁だし、ビールがうめーぞ!」

「ははははは。」

ハヤトもつられて大笑いしました。そのときです。ハヤトのバッグの中から、ふわーっと、黄色い光のチョウが出てきました。はじめは、モンキチョウのような小さな当でしたが、少しずつ大きくなってきました。

「うわー!」

ハヤトは、思わず大きな声を出してしまいました。

「どうした?」

お父さんは、ハヤトの方をちらっと見ましたが、また前を向きました。

「あ、いや。なんでもない。」

黄色いチョウは、ハヤトのまわりを飛びながら大きくなり、最後は、光のまま車からすり抜けて外へ出ていきました。パタパタと羽根を動かすたびに、黄金色の光の粒が出ては消え、出ては消えしています。黄色いチョウは、しばらく助手席のそばを、車のスピードに合わせてひらひらと飛んでいましが、やがて海の方に消えていきました。ハヤトは、黄色いチョウが消えた海の向こうをじっと眺めていました。朝のときと同じように、何かの花の香りが車の中に漂っています。

「なあハヤト、なんかいい匂いしないか?」

お父さんが、たずねてきました。

「ほんま?気のせいじゃない?それか、このおかしのにおいじゃない。」

ハヤトは、食べるのを止めていたスナック菓子を食べ始めました。

「そうかもしれんな。」

お父さんは、そう言いました。が、よく見ると、お父さんもハヤトが見つめていた海の向こうを見つめていました

February 20, 2021

ハヤトの不思議な色鉛筆(10:水色) 令和3年2月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第10話になりました。

今回の色は、水色です。

このシリーズは(ハヤトの不思議な色鉛筆)は

僕が担任するクラスのみんなに

ちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソードを目標に

「心温まるお話」を子供目線で書いています。

今回は、音楽に関するお話。

音楽発表会の前日に子供たちに読んでもらいました。

ゴールまであと2話!

あーこの楽しい感覚が終わっちゃうのねぇ。

前作までのお話のリンクを張っておきますね。

ご笑覧ください。

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

ハヤトの不思議な色鉛筆(6:ピンク)

ハヤトの不思議な色鉛筆(7:うすだいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(8:紫色)

ハヤトの不思議な色鉛筆(9:水色)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ハヤトの不思議な色鉛筆(10)  さくまけんじ

 

「うぅ~。窓があいてたら、さみぃなぁ。ケンちゃん、もう窓閉めようや。」

めずらしく教室で昼休みをすごしていたハヤトは、肩をすくめてケンジに頼みました。ハヤトの教室に吹く風も、だんだん冷たくなってきています。学校のまわりの田んぼでも、ちょっと前までたわわに実っていた稲穂が刈り取られ、どこかさみしい感じがします。実りの秋ではありますが、季節が先に進んでいるのがわかります。

「了解!といいつつ、全開!」

ケンジは、ノリ突っ込みでもするように、窓を開けました。ピュ~っと、教室に風が入ってきました。教室のみんなの目が、ケンジが開けた窓の方に向けられました。

「いやいや、換気!換気!」

ケンジは、あわてて窓を閉めました。

「ケンちゃん、さみぃ~わ。」

そう言いながら、ハヤトの目は笑っています。いつもまじめなケンジが、窓を開けたのが、おかしくて、うれしくて、ニヤニヤしてしまったのです。

「ねぇねぇ。ハヤト、今度の日曜日、何か予定ある?」

振り向くと、アキラが立っていました。

「おぉ、アキラくん。どうしたん?」

ハヤトは、おどろいてたずねました。よく話をする方ではないアキラが立っていたことが、意外だったのです。

「あ、いやぁ…。日曜日、ピアノの発表会があるんだけど、見にこないかなぁ、と思って、、、」

ハヤトは、アキラから話しかけられただけでも意外だったけど、発表会に誘われたことはもっと意外でした。

「そ、そうな。予定は何もないわ。なあ、ケンちゃん。」

ハヤトは、どうしたらいいかわからず、ケンジの方を見ました。

「何もないはず。よな。でも、なんでハヤトなん?」

ケンジも歯切れの悪い返事をし、そうたずねました。

「あ、いや、さ、西條さんが・・・、ハヤトを誘ったら来てくれるはずだよ。って教えてくれたから。」

アキラも歯切れ悪く説明をしました。

「は?ほのあが?」

ハヤトは、きょとんとしています。

「おいおいおい、どゆこと?どゆこと?」

ケンジは、目の色が変わりました。

「この発表会、西條さんも出るんだって、で、僕も出るんだけど、ハヤト誘ったらいいよって。」

「うふふふふ。」

ほのあの笑い声が聞こえました。ほのあの席の方をみるといつものように指先をこめかみにあてて敬礼をしています。口パクで、「よ・ろ・し・く」と言っているようです。

「じゃあ、見に行こうや。ケンちゃんもいくじゃろ。」

ハヤトは、ピアノの発表会など見に行ったことはなかったのですが、そう返事をしました。

「う、うん。行く、行く。」

ケンジは、顔を赤らめて答えました。

「じゃあ、明日チケット持ってくるから、日曜日、市民会館に来てね。」

アキラは、さっきよりもずいぶん明るい声で答えました。

 

「アキラくんがピアノ弾くの知ってたけど、ほのあもピアノ弾けるんじゃなぁ。」

学校帰りハヤトが、ケンジに話しかけました。

「ほんま、全然知らんかったなぁ。同じピアノ教室にでも通っているんかなぁ。」

ケンジが、手を前に出してピアノを弾くふりをしました。

ポロロロロ♪

ハヤトの耳にピアノの音が聞こえました。

「え!?」

ハヤトはびっくりしました。ケンジの指先の動きに合わせてピアノの音が聞こえたような気がしたのです。

「どうした?ハヤト?二人が、同じピアノ教室っていうの不思議じゃないじゃろ。」

びっくりしたハヤトに、ケンジがびっくりしています。

「そ、そうな。なんちゃらピアノ教室って感じで、全国にある教室だったら、引っ越ししても大丈夫じゃろうし。」

ハヤトは、自分だけにピアノの音が聞こえていたということが分かり、あわててそう答えました。

「ともあれ、発表会楽しみだなぁ・・・」

ケンジが遠くの空を眺めて言いました。

「ほのあのピアノ弾く姿が見たいだけなんじゃろ。」

ハヤトがケンジをからかいました。

「いやいや。ピアノの演奏をききたい!」

ケンジは、ハヤトの方に向き直って言いました。

「あ、ピアノの演奏だけでいいなら、録音してきてあげるよ。会場に行かなくてすむじゃん。」

ハヤトは、さらにからかいます。

「いやいや、会場に行かないと!アキラ君のチケットも無駄になるし!」

ケンジは、必死です。そんなケンジを見て、ハヤトは「やっぱケンちゃんは最高の友達だな」と思っているのです。

 

ハヤトは家に帰ってから、自分でもピアノを弾くまねをしてみました。でも、さっきのように音はでません。

「おかしいな。聞き違いかなぁ。」

そんなことを考えていると色鉛筆のケースが目に入りました。

「お、そっか、こんなときこそ色鉛筆よね。」

そう言いながら色鉛筆のケースを取り出し、スケッチブックの真っ白なページを広げました。

「いや、でも・・・なに描いたらいいんだ?」

そうつぶやいていると、色鉛筆のケースのふたがパカッと開きました。そして、水色の色鉛筆がゆらゆらと揺らめきながら空中に浮きました。色鉛筆の形はしていますが、表面は揺らいでいて、水風船のような、細長い水滴のようなそんな感じがしました。

「おー、水色かぁ。」

ハヤトは、宙に浮いた水色の色鉛筆を目で追いました。色鉛筆は、ゼリーのように、プリンのように、表面をプルプル震わせながら、スケッチブックの上まできました。

「なんか描くんかな?」

と言ったとたんに、そのプルプルがパチンとはじけました。

「うわ!」

ハヤトがそういう間もなく、パシャっと水色の絵の具がスケッチブックの上に飛び散ったように見えました。

コロコロコロ。

スケッチブックの上から、水色の色鉛筆が転がり落ちました。ハヤトがスケッチブックをのぞき込むと、そこには、きれいな水の流れが描かれていました。使っている色は水色だけなのに、いろんな色が見えるような水の流れです。大きな泡から、小さな泡まで光り輝き、いろんな色を放っています。動いていない絵であることは確かですか、流れがあり、きれいな泡が浮かんでは消え、消えては浮かんでいるのもわかります。

「すげー!なんだよ、このタイミングで・・・」

そう思っていると、絵の中から小川のせせらぎのような音まで聞こえてきました。水の泡が生まれたり、消えたりするのに合わせて、ピアノの音がポロン、ポロンと聴こえてきます。そして、よくよく耳をすますと、小川のせせらぎを奏でていたのもどうやらピアノの音のようです。

「なにが起こったん?」

不思議なことが起こることにずいぶん慣れていたハヤトですが、このたびもあっけに取られてしまいました。そして、しばらくするとスケッチブックの水の流れは、スケッチブックだけではおさまり切れず、ハヤトに向かってきました。宙を漂う水の流れは、あっという間にハヤトを飲み込み、部屋全体を飲み込みました。ハヤトの部屋は水そうのようになっているはずなのですが、流れは止まった絵のようであり、それでいて確かに流れています。部屋の中で、小さな泡が生まれ、やがて大きくなっては消えていきます。光の玉のようなその泡も、止まっている絵のようでありながら、確かに生まれては消えていきます。そして、水の流れを奏でるメロデイーと泡が生まれては消える様子を表す音ピアノの音は、ずっと聴こえています。ハヤトは、目をつむりクラゲのようにその水の流れに身をゆだねてみました。ゆらゆらと揺れているようでもあり、じっと止まっているようでもあります。そして、その間、どこからともなく聞こえてくる心地よいピアノの音は、ずっと続いていました。

「うふふふふふ」

また、女の子の笑い声がしました。ハヤトは、いつもならきょろきょろするところですが、今日は、目をつむったまま、笑い声の主を感じることにしました。しかし、そのことについては何も感じることができず、流れる水とピアノの音だけを感じることしかできませんでした。ハヤトは、ゆっくり息を吐き、目を開けました。

「へぇー。」

さっきまで部屋の中にあった水の流れや光の泡は消えて、ピアノの音も聞こえなくなりました。部屋の中にあった流れや音は、スケッチブックの中に帰ってしまったようです。

「まあ、よーわからんかったけど。」

ハヤトは、そんな独り言を口にしていました。そして、転がっていた水色の色鉛筆をケースに戻し、スケッチブックに描かれたきれいな水の流れの絵をしばらく見つめていました。

 

日曜日になりました。いよいよ発表会の日です。ハヤトは、ケンジと市民会館の大ホールの客席に隣同士に座っていました。どうやら小学生から大人まで、いろんな年齢の人が20人ほど演奏をするようです。

「アキラ君は、10番目で・・・、ほのあは・・・。」

受付でもらったプログラムを確認しながら、ハヤトがそう言うと、

「トリだよ、トリ。20番目。最後だよ。」

と、ケンジがやや興奮気味にいいました。

「わお!やっぱり、東京育ちのお嬢様は、ちがうのかねぇ。」

そんな話をしていると場内アナウンスが流れ、発表会が始まりました。ハヤトは、お客として初めての発表会でしたが、少し緊張していました。演奏中は、しゃべったり、大きな音を立てたりしちゃいけないと、お母さんに聞かされていたのです。ところが、演奏が始まってみると、その緊張はなくなりました。ピアノの音が一つ鳴るたびに、シャボン玉のような光の玉がふわっ、ふわっと出てくるのです。悲しい曲には悲しい色で、穏やかな曲のときには穏やかな色の玉が出てきます。小さな音のときには小さな玉が、大きな音のときには大きな玉が、ピアノの音に合わせて出てくるのです。曲が終わるたびに、

「ケンちゃん!ピアノってすげーなぁ!」

とケンジに話しかけていました。ハヤトは、ケンジにもその光の玉が見えていると思ったのです。ケンジは、話しかけられるたびに

「そうな、すごいな。俺もピアノ習おうかな・・・。」

と返事をしていました。いよいよアキラの番がきました。

「お、次はアキラ君じゃな。集中して、しっかり聴こうな。」

ケンジは、人差し指を立て、おしゃべりをしないようにと言う感じでハヤトにいいました。ハヤトは、大きくうなずきました。

ポーン

アキラが、客席に向かってお辞儀をして、椅子に座り、初めの音を鳴らしたときです。ピアノから、水色の波紋のようなものが、沸き立ちました。その波紋は、空中を水平に漂います。そして、曲が進むにつれ、波紋ではなく水色の流れになってきました。ハヤトは、「部屋で起きたことと同じだ」と思いました。ピアノから聞こえるメロディーは、音ではなく、むしろ絵のようなのです。ピアノから自分に流れてくる小さな小川のようでした。そして、その小川と同時に光の泡が一緒に流れてくるのです。一瞬一瞬は絵のように美しく止まって見えるのですが、確かに流れていて、その流れは自分にやって来るのです。とてもやさしく、あたたかな流れに包まれて、ハヤトは、少し泣きそうになりました。アキラまでの9人の演奏も素晴らしかったのですが、ただ光の玉が出ては消え、出ては消えしていただけで、流れややさしさやあたたかさは感じなかったのです。

ジャーン

最後の音を弾き終え、椅子から降りたアキラは、客席に向かってお辞儀をしたあと、ハヤトたちに手を振ってくれました。ハヤトもケンジもあわてて、手を振り返しました。

「ケンちゃん!アキラ君すげーよ!ほんま、アキラ君すげーよ!」

ハヤトは、そう言いながら精いっぱいの拍手をしました

「ほんま、すごいよな。学校で見るアキラ君と全然ちがうなぁ。」

ケンジも感動しているようです。

「あとは、ほのあの演奏じゃな。」

「ほんまな。トリじゃけん。アキラ君より、うまいんかなぁ。」

二人は、ほのあの演奏も楽しみでたまらなくなりました。

そのあとの演奏も光の玉は見えましたが、アキラのときのような流れをもって会場全体を包み込むような演奏はありませんでした。まったく光の玉さえも出ない演奏や途中で眠たくなるような演奏もありました。そして、いよいよほのあの演奏の番になりました。

「ケンちゃん、いよいよじゃな。」

「うん。いよいよだな。」

会場にアナウンスが流れ、拍手が沸き起こり、ほのあがステージにやってきました。発表会ということもあって、おしゃれなドレスを着ています。ハヤトもケンジも、いつもと違うほのあに見とれました。ほのあは、会場に向かってお辞儀をし、ゆっくりと椅子に座り、両手をさすったあと、肩を使って大きく深呼吸しています。会場全体が、じっとほのあの手元を見つめています。

ポロン

やさしいメロディーが流れ始めました。細い光が、ほのあのたたく鍵盤から四方八方に広がりました。そのやさしくあたたかい光は、幾重にも重なり、波打って会場全体を一瞬にして包み込みました。ハヤトは、「アキラ君のときとはちがうけど、これはこれですごい!」と思いながら、その波打つ光を楽しんでいました。その光の波は、曲のテンポに合わせて早くなったり、遅くなったりします。また、太くなったり、細くなったりもします。ハヤトは、見える音楽を楽しんでいる感じになってきました。途中から、ほのあの指の動きを見るのをやめて光全体を見ている自分に気が付きました。そこでハヤトは、目をつむってみました。すると先ほどまで見えていた景色とは違う光の渦が見えてきます。ほのあのピアノにあわせて、光の粒がダンスをしているようです。そして、見ていないはずのほのあの指先や表情が、その向こう側に浮かんでくるのです。そして、その光粒が自分の体の中に入ったり、出ていったりするのも見えるのです。その光の粒たちが、ずっと遠い過去とずっと先の未来からハヤトにメッセージを伝えに来ているように思えました。この世には、ほのあと自分としかいなくて、ピアノと光の粒が織りなすダンスだけが存在するかのように思えました。永遠にときが流れているようであり、今このときが止まっているようにも感じられるのです。ハヤトは、今までに感じたことのない喜びを感じさせられているようでした。

ジャーン

ほのあの演奏が終わりました。一瞬世界が止まってしまったかのように感じられました。会場は、大きな拍手に包まれています。ハヤトは、ゆっくり目を開けました。ステージでは、ほのあが会場に向かってお辞儀をしているところでした。ほのあがステージ袖に歩いていくまで、会場の拍手は止まりませんでした。

「おい、ハヤト、なに泣いてんだよ。」

ケンジにそう言われて、ハヤトはふと我にかえり、自分が涙を流していることに気が付きました。

「あ、いやぁ・・・その・・・。」

ハヤトは、おどけるわけでもなく、あわてるわけでもなく、そうとしか答えられませんでした。

「泣くぐらい感動したってわけよな。」

ケンジは、そう声をかけてくれました。

「そうな。」

ハヤトは、そう答えて上着の袖で涙を拭きとりました。そして、

「なんかプロジェクションマッピングみたいな演奏だったなぁ。アキラ君もほのあも。」

と言いたしました。

「え!?何言ってんのハヤト。今日は、ピアノの演奏を聴きにきたんじゃろ。なんの映像効果もなかったじゃん。」

ケンジは、真剣に言っています。

「そうなんじゃ。でも、俺には、見える音楽だったんよ。」

ハヤトは、ぼそりと言いました。

「おぅ。わかった、ハヤトにとったら、そんな発表会だったんな。」

ケンジは、納得したような、しなかったような感じでそう答えました。

 

市民会館の出口あたりで、ほのあとアキラが並んで二人を待っていました。

「今日はありがとう。」

アキラが二人にお礼を言いました。

「いえいえ、こちらこそありがとう。二人ともすごい演奏だったね。」

ケンジが言います。

「そうそう光の玉がぽわんって浮かんだり、光の波がやってきたり、ピアノっていいなと思ったわ。」

ハヤトもそう続けました。

「あら、やっぱりハヤトはわかってくれたのね。うふふふふ。」

ほのがうれしそうに答えました。

「え、何?何?」

「どゆこと?」

アキラとケンジがきょとんとしています。

「ま、そゆこと。じゃあ明日ね。」

ほのあは、振り向いて行ってしまいました。

「またな。」

ケンジは、あわててそう言って手を振りました。

「じゃあね。アキラ君。いい演奏ありがとうね。また、明日からよろしく。」

ハヤトは、アキラに丁寧にお礼を言いました。

「じゃあね。」

そう言って、ハヤトとケンジは市民会館を後にしました。

「おれ、ピアノ始めよっかなぁ。」

ケンジが、遠くを見ながらそう言いました。

「いやいや、ケンちゃんの演奏だったら、光の玉はでないいんじゃない?」

ハヤトは、からかうように言いました。

「だからそれなんだよって!」

「いやいや、内緒内緒!あはははは。」

ハヤトは、大きな声で笑いながら走り出しました。

「ちょっちょっと!待ってぇ。」

ケンジは、ハヤトを追いかけます。秋も深まる街の中に、二人の足音がこだましました。

 

January 28, 2021

ハヤトの不思議な色鉛筆(9 紫色) 令和3年1月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第9話になりました。

今回の色は、紫色です。

このシリーズは(ハヤトの不思議な色鉛筆)は

僕が担任するクラスのみんなに

ちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソードを目標に

「心温まるお話」を子供目線で書いています。

ゴールまであと3話!

年度が変わるまでに書き上げて、書籍化の段取りのところまではこぎつけたい!

ゴールまであと少し!

前作までのお話のリンクを張っておきますね。

ご笑覧ください。

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

ハヤトの不思議な色鉛筆(6:ピンク)

ハヤトの不思議な色鉛筆(7:うすだいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(8:紫色)

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ハヤトの不思議な色鉛筆(9)  さくまけんじ

今日は、しとしとと雨が降っています。ハヤトは、授業中にもかかわらず、教室から外をながめていました。

「あぁ、焼きイモ食べたいなあぁ。秋と言えば、食欲の秋。ぶどうや栗もいいけど、秋はやっぱり焼きイモよなぁ。そろそろ畑のサツマイモを掘り起こして、近所のみんなと焼きイモやりてぇなぁ。でも、こんだけ雨降ったら、芋ほりも、焼きイモもできんよなぁ・・・。」

ハヤトは、ぶつぶつ独り言を言っていました。気が付かないうちに少し声が、大きくなっていたようです。

「ハヤトさん。お芋の話は、休み時間にお願いしますね。みんなお腹すいてしまうからね。」

とうとう先生に注意されてしまいました。

「はーい。すいません。お腹がすいてしまって、つい食欲の秋って、なあに?てイメージトレーニングしてしまってました。」

「あはははは。」

おどけてみせるハヤトの姿に、教室が笑顔で包まれました。

「まあ、先生も焼き芋は、好きですけど・・・」

先生は、そう言い添えて授業を再開しました。

 

ハヤトは、その日、一日中焼きイモのことで頭がいっぱいでした。でも、焼きイモのおかげか、今日は一日が早くすんだ気がしていました。

「あーあ、早くイモ掘りして、焼イモ食いてぇ~。けんちゃーん、焼きイモ食べたくない?」

帰りの会が終わり、下足箱へ向かうとちゅうで、ハヤトは思わずケンジに焼きイモのことを話しました。

「まぁ、あったら食べるけど、今すぐ食べたい!めっちゃ食べたい!って感じじゃないなぁ。」

ケンジは、いつものように冷静に、淡々と答えています。

「俺はな、今すぐ食べたい!めっちゃ食べたい!って感じなんよ。」

ハヤトは、身振り手振りを加えて、ケンジに訴えました。

「そうね。私も今すぐ食べたい!めっちゃ食べたい!って感じよ。」

後ろから、女の子の声がしました。

「じゃろじゃろ。」

振り向くと、ほのあが立っていました。

「焼きイモ食べたいよねー。」

ほのあは、笑顔でそう言うと、二人の間をすり抜けて、靴をはき替えて帰っていきました。

「僕も、食べたいかも・・・・」

ケンジが、ぼそっと言いました。

「なんでやねん!」

ハヤトが、そう突っ込み、ケンジの肩をポンとたたきました。

「あ、う、うん。きょ、今日は雨じゃけん、気ぃ付けて帰えろうな。」

ケンジは、しどろもどろに答えました。

「けんちゃん、大丈夫か?今日は、早よ帰って昼寝でもした方がいいんじゃない?」

「そうかもな。」

ハヤトの打診をケンジは素直に受け入れました。

ハヤトは、ケンジと別れて、雨の降る中を一人で帰っていました。梅雨の時期の雨と違って、なんとなく静かな雨だなと思っていました。

「あんまり長雨だと、イモ掘りも稲刈りもできんようになるなぁ。」

そうつぶやきながら、手に持っている傘を、柄を軸にしてくるくると回しました。傘の骨の端っこから、自分を中心に水しぶきが飛んでいくように見えました。いかにも「子供用です!」というような、ありふれた黄色い傘をさしていたのすが、何か特別な機械を操っているように思えました。

「しゅーん!しゅーん!」

ハヤトは、右回りから左回り、左回りから右回りという具合に、傘を交互に回しながら、水しぶきが飛ぶのに合わせて、効果音をつけて楽しんでいました。

「しゅーん!しゅーん!」

ハヤトが、そう言うたびにハヤトのまわりには、水しぶきがダンスをするように飛び出します。

「あれ?」

ハヤトは、水しぶきばかりに気を取られていたのですが、自分の持っている傘が、回すごとに黄色じゃない色になっているのに気が付きました。

「しゅーん。しゅーん。」

今度は、少しゆっくりと回しました。水しぶきではなく、傘の内側を眺めてみました。

「わーっ!」

黄色の傘でしたが、回すスピードに合わせて、紫色の傘になるのです。ゆっくりと紫色になり、止めるのに合わせて黄色に戻ります。

「しゅーん!しゅーん!」

今度は、早く回してみました。さっきより早く紫色になりました。

「おっ、すげー!」

ハヤトは、思わずそう口にしました。

「うふふふふふ。」

また、女の子の笑い声が聞こえました。

「お、ほのあか?」

ハヤトは、あたりをきょろきょろと探しましたが、ほのあももちろんですが、周りには誰もいませんでした。

「はい、はい。この後、何か起きるんですよね。」

そうつぶやいて、もう一度傘を回し始めました。

「しゅーん!しゅーん!」

きれいなしぶきは踊っていますが、傘の色は黄色のままです。

「何も起こらんのかい!」

ハヤトは、傘に突っ込みを入れました。そして、わざと水たまりを選んで、バシャバシャと音をたてながら、走って家に帰りました。

 

家に着いたときには、くつもくつ下もびちょびちょにぬれていました。

「あちゃー。こんなにぬれとってたら、お母さんに叱られるじゃろうなぁ。」

ハヤトは、そう思いながら、恐る恐るドアを開け、小さな声で

「ただいま。」

と家の中に入りました。家の中から返事はありませんでした。どうやら、お母さんは留守のようです。ハヤトは、妹のココアと買い物にでも行ったんだな、と思いました。雨に濡れた体やランドセルをタオルでふいたあと、ぬれているくつ下もはき替えました。

「はいはい。しかられる前に、くつ下は洗濯かごへ・・・。」

ハヤトは、我ながらいい動きをするなと思いながら、服やランドセルを手早く片づけました。

「しかし、あの紫色の傘って何だったんじゃろうなぁ・・・」

そんなことをつぶやきながら、リビングのソファーに座りました。目の前に、食べかけのポテトチップの袋が置いてあったので、

「まずは、おやつだな。」

と、そのポテトチップを食べ始めました。

「ポテトチップもイモだけど、やっぱ焼イモ食べたいよなぁ~。」

そんなことを言っていると

「うふふふふふ」

と、また笑い声が聞こえました。

「うふふふふ」

どうやら、ハヤトの部屋の方から聞こえてきます。ハヤトは、急いで自分の部屋へかけ込みました。

ガチャ。

ドアを開けて、中に入ってみました。ほのあがいるのかもときょろきょろしてみましたが、誰もいません。

「だれもおらんよな。」

もう一度部屋を見まわすと、色鉛筆ケースの上に、紫色の色鉛筆が立っていました。ハヤトの目には、紫色の洋服を着た小人のように見えました。

「わお!こんにちは。」

小人に見えたので、ハヤトは思わずあいさつしてしまいました。すとると、色鉛筆もおじぎをしました。しかし、おじぎをしたかと思うと、カランと音を立てて横たわってしまいました。

「あらららら・・・」

小人が倒れるように、横になってしまったので、ハヤトは、手を伸ばして助けようとしましたが、ぴたっと止まって動かなくなってしまいました。

「何なんだろう。」

ハヤトは、考えました。そういえば、学校の帰りに見た、色が変わったときの傘の色と同じだな、と思いました。ハヤトは、さっそくスケッチブックを取り出して、その紫色の色鉛筆で、大きく開いた傘の絵を描きました。

「さ、何か起こるかな?」

傘に向かって話しかけました。何も起こりません。

「そっか、あのときはくるくる回しながら、しゅーん!しゅーん!って言ってたもんな。」

そう言いながら、スケッチブックを人差し指の上にのせて、回し始めました。

「しゅーん!しゅーん!」

ハヤトが、そういった瞬間に、回転しているスケッチブックの中から、“ばさっ”と音を立てて傘が出てきました。今日見た紫色の傘です。

「わお!そうこなくっちゃ!」

ハヤトは、さっそくその傘を手にしました。

「そうそう、これこれ。」

傘をさしてくるくると回し始めました。下校のときにしていたように、右回りから左回り、左回りから右回りという具合に、傘を交互に回したのです。すると、雨も降っていないのに、傘の骨組みの先から、透明な水しぶきが飛び始めました。よく見るとそれは水しぶきではなく、シャボン玉のようなものでした。水しぶきのように、スピード感はあるのに、しばらくするとふわっと消えてなくなります。重さがあるようで、とても軽いようなものにも見えました。

「しゅーん!しゅーん!」

くるくる回す傘の先から、生まれては消えるシャボン玉に包まれて、ハヤトはとてもいい気持ちになりました。何度か回し終わったときです。ハヤトは、いつのまにか自分の部屋ではない場所で、傘をくるくる回していることに気が付きました。傘を回すのを止めて、周りを見てみると、ものすごい田舎に来ている気がしました。波の音が聞こえるので、どうやら海のそばにいるようです。

「ん、ここどこなん?」

遠くを眺めてみると、火山のように山頂からけむりがでている山がありました。

「あら、このあたりでは、見ない顔だねぇ。」

とつぜん見知らぬおばあさんが、話しかけてきました。しかも、服装は時代劇に出てくるような質素な服です。着物ともいえない地味な茶色の浴衣のようなものを着ていて、はきものも草履でした。その姿にびっくりして、

「は?え、いやぁ。」

ハヤトは、そうとしか言えずに、手に持っていた傘をたたんで、おばあさんにおじぎをしました。

「ほー、その傘持って、不思議な服装したあんたみたいな男の子や女の子がたまにここにくるんさ。」

おばあさんは、話し始めました。

「え!?」

ハヤトは、言葉になりません。これって、タイムスリップ?しかも、ぼくだけじゃなくて?

「これでも、食べんさい。」

おばあさんが、何か差し出してきました。よく見ると、今日、学校にいるときから食べたかったサツマイモの焼き芋です。

「うわ、焼きイモ!」

ハヤトは、うれしくてたまりませんでした。そして、おばあさんの言われるままに、その焼きイモを受け取りました。

「うまいか?」

おばあさんはたずねます。

「お、おいしいです。」

ハヤトは、あわてて答えました。あわてたので、イモがのどにつかえそうでした。

「うまいイモさ。これは、琉球から伝わった琉球イモ言うとったけど、今じゃ、薩摩でとれるサツマイモって、言うちょる。薩摩の侍が、琉球に攻め入ったときに持って帰ってきたちゅう話だわ。」

ハヤトは、今自分が、いつの時代のどこにいるのか、まったく見当がつきませんでした。

「おばあちゃん。ここってどこなんですか?」

ハヤトは、おそるおそる聞いてみました。

「お前さんも同じ質問するのう。ここは、薩摩じゃ。薩摩隼人の薩摩。そうそう、前来た女の子は、鹿児島言うとったわ。まあ、まあ、美味しそうに食べてくれよるね。」

おばあさんは、ずーっと笑顔を絶やさずにお話してくれました。ハヤトは、焼きイモを口の中でもぐもぐさせながらも、真剣に聞きいていました。おばあさんのお話が終わると、ハヤトは

「サツマ・ハヤト?おばあさん、僕、ハヤトっていう名前なんですけど、ハヤトってどんな意味があるんですか?」

と、感じたままの質問をしてみました。

「いい名前を付けてもろうちょるね。どんな意味があるんだろうね。大昔は、薩摩に住む男ん子をみんなハヤトって言うちょったらしいけどなぁ。」

おばあさんは、遠くの方へ目をやりました。ハヤトは、おそらくあれは桜島だな、と思いました。

「隼人の文字は、ふるとりに十文字じゃろう。それは、はやぶさっちゅう意味があるからねぇ。ハヤブサ(隼)のように、早い人っていう意味かねぇ。はやてゆうの知っちょるかのう。いきなり吹く強い風のことをはやて言うからね。そんくらいスピード感のある人になってほしいっちゅう言う意味を込めて、名前つけてもらったんとちゃうか?」

おばさんは、よりいっそう笑顔になってハヤトの方へ向きなおりました。

「あ、ありがとうございます。ぼく、そんなにスピード感ある生活してないですけど・・・。」

ハヤトは、とまどいながら答えました。

「まあええよ。この薩摩隼人の地は、大昔から日本と琉球や大陸をつなぐ大事な場所だったんちゅう話じゃ。昔ん人が、お祈りしちょった跡のようなところがたくさん残っちょる。まあ、いつまで残るんかは知らんけどなぁ。お前さんも、ハヤト言う名前なら、琉球や大陸へ向けて、日本の力を見せるような男になってもらわんと!」

「は、、、はいっ!」

ハヤトは、あわてて返事をしました。

「うふふふふふ。」

いつもの女の子の笑い声がしました。どうやらおばあさんには、聞こえていないようですが、ハヤトは、きょろきょろとあたりを見まわしました。誰の姿も見つけることはできませんでしたが、なんとなく人の気配だけ感じました。

「おばあさん、焼きイモ美味しかったです。」

ハヤトは、気を付けをして、おばあさんに大きな声で言いました。

「はいはい。よろしゅうおあがり。」

おばあさんは、にっこり笑いました。

「おばあさんの言うように、世界で活躍できるような立派な人になります!」

ハヤトは、そう付け加えました。

「セカイ?何だいそれは・・・。まあまあ、私が知らなくてもいいんだろうね。がんばりんしゃい。ハヤト!」

おばあさんは、ハヤトの背中をポンとたたきました。おばあさんが、ハヤトの背中をたたくのと同時に、紫色の傘が、バサッと開いてしまいました。そして、急に強い風がびゅーっと吹きました。

「ほら、こんな風がはやてさぁ。」

おばあさんは笑顔ですが、ハヤトは、風に飛ばされそうになった傘をぐっと握りしめて、ふんばりました。

 

気が付くと、ハヤトは自分の部屋に戻っていました。さっきまで握りしめていた紫色の傘はもうありません。スケッチブックをのぞくと、自分の描いた紫色の傘が、大きく開いた傘の絵のまま残っています。

「うふふふふ。」

また、女の子の笑い声が聞こえました。その笑い声と同時に、スケッチブックの片隅に、煙をはいている桜島の絵が浮かび上がってきました。

「わお!」

ハヤトは、びっくりしました。そのとき玄関の方から、

「兄ちゃん。ただいま!」

と、妹のココアの声がしました。

「おかえりぃー!」

ハヤトは、大きな声で返事をしました。そして、部屋を出てリビングの方へ向かいました。

「ハヤト、ただいまぁ。今日の雨、よく降っているわよね。あ、そうそう、焼きイモ買ってきたわよ。食べるでしょ。手を洗ってらっしゃい。」

お母さんが笑顔で言いました。

「わお!」

ハヤトは、笑顔で手洗い場へ向かいました。

January 16, 2021

ハヤトの不思議な色鉛筆(8 青色) 令和3年1月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第8話になりました。

今回は少しピッチを上げて書きました。

今回の色は、青色です。

このシリーズは(ハヤトの不思議な色鉛筆)は

僕が担任するクラスのみんなに

ちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソードを目標に

「心温まるお話」を子供目線で書いています。

8話目が書けたので、あと4話です。

ゴールまであと少し!

前作までのお話のリンクを張っておきますね。

ご笑覧ください。

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

ハヤトの不思議な色鉛筆(6:ピンク)

ハヤトの不思議な色鉛筆(7:うすだいだい)

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ハヤトの不思議な色鉛筆(8)  さくまけんじ

 

運動場にたくさんのトンボが飛んでいます。運動場だけではなく、ハヤトの学校の周りには、秋になるとたくさんの赤とんぼが飛ぶようになるのです。ハヤトは、この暑くもなく、寒くもない時期に、トンボの群れを眺めるのがとても好きでした。

「なあ、けんちゃん。トンボって、夏は山の上の方におるんじゃろ?」

図書館で本を読む時間に、ハヤトはケンジに聞きました。

「らしいよ。成虫になると赤色が濃くなって、田んぼのある人里に下りてくるんだって。」

ケンジはさらりと答えました。

「なんで、体の色変わるんじゃろうなぁ。」

「目の前で、図鑑広げてるんだから、自分で調べたらええが。」

ケンジは、ハヤトが目の前で図鑑を広げているのを指さして言いました。

「写真見るんは、好きなんじゃけど、説明読むんは面倒くさいが、漢字も多いし・・・。」

ハヤトは、ケンジの助言に少し抵抗しました。

「いやいや、それの積み重ねで、賢くなるんでぇ~。」

「ほんまじゃな、あはははは。」

静かな図書館に、ハヤトの笑い声が響きました。クラスのみんながハヤトの方をちらっと見ました。

「ハヤトさん、ケンジさん、おしゃべりはいけませんよ。今は、静かに本を読む時間ですよ。」

司書のマリ先生が、二人を注意しました。

「はーい。」

「はーい。」

二人は、バツが悪そうに返事をしました。ハヤトは、国語の勉強は嫌いでしたが、図書館で過ごす国語の時間はとても好きでした。低学年の頃は、絵本の読み聞かせや紙芝居の時間がとても好きでした。特に、紙芝居は、紙芝居台が組み立てられるときから、「今週は、どんなお話かな?」とワクワクしていたのです。学年が上がるにつれて、紙芝居の回数は減り、ちょっと難しいお話の読み聞かせの時間やその本の紹介になっていきました。それらも楽しみではありましたが、ハヤトは心のどこかで「紙芝居の方がいいな。」と思っていました。そんなことを思っていると、ふと、先生のうしろにたたまれた状態で置いてある紙芝居台が目につきました。

「あの枠があるから、ええんよなぁ。その世界に行けるというか、ちいさな映画館というか・・・。待てよ。昔の子どもって、紙芝居屋さんが来て楽しんでたんじゃろ?っていうことは、今に例えると・・・。ゲームみたいなもんか?リョータとか、マサキとか、いっつもゲームの話ばっかじゃけど、ゲームしながら別の世界にいってるってことなんちゃうかな?ちょっとちゃうか・・・。紙芝居やお話の世界は、作者が創ったようにしか話は進まんけど、ゲームは主人公を自分で操作できるしなぁ。でも、設定やゴールは創った人の通りじゃし・・・。どっちやねん。」

ぶつぶついいながら、ハヤトは、思わず自分で自分に突っ込みを入れていました。少し声が大きかったのか、もう一度みんなの目がちらっとハヤトの方を見ました。

「うふふふふふ。」

女の子の笑い声が聞こえました。いつもなら、頭の上の方から聞こえるのですが、今日は、図書館の中にいる誰かが笑ったように聞こえました。

「え?」

ハヤトは、声にならない声を出しました。

 

図書館から教室に戻るとき、リョータが声をかけてきました。

「おう、ハヤト。」

「おう、またゲームの話か?」

ハヤトは先手を打って答えました。

「そうそう、そのゲームの話。今日さ、オンラインゲームいっしょにやろうや。なんかさ棒人間のゲームなんよ。棒人間が、冒険する“ボーボー”ってゲームなんだけど、ハヤトって、いっつも棒人間の漫画描いてるから、おもろいかなぁと思って。」

リョータは、生き生きと話してきます。ハヤトは「ほんとにゲームが好きなんだな」と感心しながら、

「わかった。一緒にボーボーしよう!」

と返事をしました。

「オッケー、じゃあこれ。」

とカードを渡されました。

カードには、QRコードがあり、その下に「棒人間の大冒険“ボーボー”」とカッコよく書かれていて、棒人間の「棒」と大冒険の「冒」の文字が大きな赤い文字になっているのでした。

「なるほど棒と冒で、ボーボーってわけか。」

「そうそう。じゃあ、夕方5時くらいからオンラインで。まあ、一時間くらいで終わる約束でしような。」

リョータは、ニコニコ顔だった。

「了解。」

「マキちゃんとか、サユリとかも来ると思うから、仲良く冒険しような。」

「ボーボー。」

ハヤトは、リョータに敬礼をしながら、「了解」というつもりで「ボーボー」と答えました。

「ボーボー。」

リョータも、敬礼をし返してくれました。

 

ハヤトは、家に帰るとさっそくタブレットで、QRコードを読み込んでみました。きれいな画面と思いきや、始めは黒一色で文字だけの画面が現れたのです。

-ようこそ、ボーボーの世界へ。まずは、あなたの名前を登録してください。

「はいはい。」

ハヤトは、タブレットに返事しながら、空欄に「ハヤト」と打ち込みました。

-次に、あなたの棒人間を登録してください。棒人間を描いたものを撮影し、登録ボタンを押してください。

カメラマークが点滅していたので、そこに触れました。すると、画面がカメラモードになりました。ハヤトは、慌てて棒人間を何かに描いて撮影しようとしましたが、

「ちょっと待てよ。」

と、ひと呼吸おいてから、例の色鉛筆とスケッチブックを取り出しました。色鉛筆のケースを開けると、なぜか青色の色鉛筆が自己主張しているように感じたので、青色の色鉛筆を取り出し、とびきり笑顔の棒人間を描きました。

「はいはい、撮影しますよ。ちょっと待ってね。」

などと言いながら、青色でできた棒人間を写真に撮りました。画面には、笑顔の棒人間が映り、登録ボタンが点滅しています。ハヤトは、

「はいはい。」

と、今度は、点滅している登録ボタンを押しました。画面は、相変わらず黒一色で、中央に小さく青い文字で「登録中」と表示されているだけでした。

「あの色鉛筆使ってるのに、何も起こらんのかなぁ・・・。っていうか、もうそろそろ5時になっちゃうなぁ。」

そんなことをつぶやいていると

「うふふふふふっ」

と、タブレットの中からいつもの女の子の声が聞こえました。

「まじか!タブレットの中におるんかい!」

と、ハヤトはタブレットに突っ込みを入れていました。と同時に、「この声、やっぱり今日図書館で聞いた声と同じだよなぁ。」とも思っていました。そんなことを思っていると「登録中」の青い文字がだんだんと形を崩しながら、ぐるぐる回り始めました。回り始めたかと思うとグニャグニャになった青い形が、タブレットから飛び出してきて、ぐるぐる回り続けています。

「わお!3Dなんか?」

そう言いながらも、ハヤトはそのぐるぐるから目を離すことができません。一瞬、カメラのフラッシュがたかれたように金色の光が、そのぐるぐるから飛び出してきました。

「うわっ。」

ハヤトは、目をくらまされてしまいましたが、光の残像が徐々に消えていくのを待っていると、なんとタブレットの上に、自分が描いた棒人間が立っていたのです。

「ようこそ、ボーボーの世界へ。今からボーボーの世界へ行きます。さあ、手を出してください。」

青色の棒人間は、ハヤトの方へ手を差し出してきました。

「ちょっと待って、行くってのは、タブレットの中に入るってこと?」

ハヤトは、びっくりしてたずねました。

「タブレット?私にはわかりません。ボーボーの世界です。」

「ようわからんけど、もう時間だし、仕方ないわ。よろしくね。」

ハヤトは、棒人間に右手を差し出しました。

「では、いきますよ。ボーボーの世界では、あなたが私です。つまり、この姿があなた自身になりますので、そのことをわかった上で、ゲームをお楽しみください。」

「ちょっちょっ、あなたが私ってどういうことなん?」

ハヤトが、たずねても棒人間は返事をしません。ハヤトは、もう一度、カメラのフラッシュのような金色の光に包まれました。そして、空を飛んでいるような、水の中を泳いでいるような感じになりました。

 

「お、ハヤトいらしゃい」

リョータの声がしました。気が付くと、目の前にリョータが立っていました。しかも、学校の運動場にいます。

「え、どゆこと?」

ハヤトは、何が起きたかまだ理解できません。しかも、目の前にいるのはリョータではなく棒人間です。顔のところだけ、一枚のペラペラな紙なのですが、リョータの顔が映っている感じでした。さらに、よく見るとリョータの部屋で、ゲームをしているリョータが鏡のように映っているのです。

「これが、ボーボーの世界だよ。何か変かなぁ?」

リョータが、首をかしげています。よく見るとポテトチップを食べたり、コーラを飲んだりしているのもわかります。どうやら、自分だけゲームの中に取り込まれているような感じなのです。

「あ、いらっしゃいマキちゃん。いらっしゃいサユリ。」

「こんにちは!」

「ヤッホー!」

マキちゃんとサユリも棒人間で登場しました。顔の部分は、リョータと同じように、それぞれの家でゲームを楽しんでいる二人が映っていました。

「今日の冒険のミッションを開始するまで、もうちょっと待ってね。カナタとほのあが来るはずなんだよ。」

棒人間のリョータが言いました。

「じゃあ今日は6人ね。どんなミッションがあるのかしら・・・」

マキちゃんは、どうやらロールケーキを食べているようです。口をもぐもぐさせながら答えています。

「リョータ。今日の場所、学校に設定しておいたよ。」

サユリが言いました。どうやらリョータとサユリが、このゲームを設定しているようです。

「ごめーん、遅れてしまったわ。」

カナタが、棒人間になって現れました。よく見るとぺらぺらのカナタの顔の後ろに、ときどきカナタの弟が、ちらちらと映り込んでいます。

「オッケー大丈夫。まだ、ミッション開けてないから。」

リョータが答えました。ハヤトは、みんな棒人間っていうだけでもかなりおもろいなと思いました。ハヤトは、自分以外のプレーヤーは、棒人間丸い顔の中に家の部屋でプレイしている姿が映りこんでいる、というのはわかったのですが、自分がみんなにどう見えているのかわかりませんでした。ただ、明らかに、学校にやってきて、普通に会話しているように感じられるのです。休み時間に見たトンボが、この時間でもしっかり飛んでいます。

「これが、最新のVRっちゅうわけなんじゃろうか?でも、アバターが棒人間って、超アナログな気もするんじゃけど。まぁええか。」

ハヤトは、ぶつぶつと独り言を言っています。

「みんなぁ。ほのあは来てないけど、もう始めるわ。5時回ってるし、何か急な用事でもできたんじゃろう。」

リョータがみんなに声をかけました。

「ボーボー」

みんなが口々にそう言って敬礼をしました。

「さあ、ミッション開くでぇ~。」

リョータがそう言うと、みんなの目の前に文字が浮いて出てきました。

-地球に迷い込んだ宇宙人を救出せよ。

「わお!アメージングねぇ。」

サユリが目をきらきらさせながら言いました。

「へぇ、この学校のどこかに宇宙人がいるってわけね。面白そう。友達になれるかしら?」

マキちゃんも嬉しそうにしています。ハヤトには、宇宙人と友達になるという発想がなかったので、ただただあっけに取られていました。

「ハヤト、大丈夫か?」

リョータが声をかけてきました。

「うん。大丈夫だと思う。この空間にまだ慣れてないけど。」

「そうかもな。でもハヤトならすぐ慣れるわ。はじめは、みんなバラバラに動くけど、最後はきっと同じ結末なるから、それまでの辛抱。ヒントや小さな指示は、目の前に文字として現れるから、それに従ったらええよ。あとは、学校で遊ぶのと同じだわ。体は棒人間じゃけどな」

リョータが丁寧に説明してくれました。

「リョータ、設定は60分よな。あんまりおしゃべりしている時間はないかも。」

カナタが、割って入りました。カナタは、ゲームを楽しむというより、ミッションを達成することに力を入れているように感じられました。

「じゃあ、みんな最後に宇宙人といい感じでさよならできたらええな。がんばろうぜ!」

リョータが、みんなに声をかけて、いよいよゲームの始まりです。

「ボーボー」

みんなが答えて、冒険が始まりました。

「体育倉庫から、サッカーボール取り出し、朝礼台の上で、リフティングせよ。・・・だって」

どうやら、リョータの目の前にだけ、その文字が浮かび上がっているらしい。

マキちゃんには、

-図工室へ行き、黒板に落書きせよ

カナタには、

-裏山に行き、5種類以上の昆虫をゲットせよ

サユリには、

-体育館のステージで、バレエのステップを踏め

という具合に、それぞれに小さな指令がでているようです。

ハヤトは、

「俺まだかよ・・・。カナタは、時間ないって言ってたのに・・・。」

と思いながら、運動場に飛んでいるトンボをぼんやり眺めていました。

「うふふふふ」

また、どこからともなく女の子の笑い声がしました。

「このゲームの中にもおるんかい!」

ハヤトは、笑い声の主に突っ込みました。すると、

4A組へ行きなさい。

と、目の前に文字が現れました。4A組は、ハヤトのクラスです。

「おいおい、宿題しなさいとかの指令じゃないだろうなぁ。」

棒人間のハヤトは、靴をはき替えることもなく、自分の教室へ向かいました。本当なら、まだまだ先生たちが残っていてもいいはずの時間なのに、学校には誰もいません。放課後の児童クラブにも誰も残っていません。シーンと静まりかえった学校で、ハヤトは、少し怖いなと思いました。

教室について、ガラガラガラと戸を開けました。教室の中には、一人の女の子がいました。

「あらハヤト、遅かったわね。」

中には、ほのあがいました。

「あれ、時間に間に合ったんだ。」

ハヤトは、びっくりしながらもそうたずねました。

「そうよ。5時からでしょ。もう10分以上も経っているわよ。」

きょとんとしているハヤトに、ほのあが答えました。もう一つ、ハヤトをおどろかせたことがあります。それは、ほのあは、棒人間になっていなくて、いつもの姿のままだということです。

「あれ、ほのあは棒人間じゃないの?」

ハヤトは、素直に聞いてみました。

「棒人間?どうゆうこと?」

ほのあは、きょとんとしています。

「これは、ボーボーていうゲームの世界で、みんな棒人間になっているんじゃないの?リョータたちとさっきまで一緒にいたけど、みんなん棒人間だったよ。」

ハヤトは、説明しました。

「へーそうなんだ。でも私には、ハヤトも普通のハヤトに見えるよ。」

ほのあからは、そんな言葉が返ってきました。

「まあいいや。今日のミッションは【地球に迷い込んだ宇宙人を救出せよ。】ってことなんだけど、ほのあも知ってるよね。」

ハヤトは、ゲームを先に進めたくて、ミッションを知っているかたずねてみました。

「ええ、知ってるわよ。宙太のことでしょ。お父さんに宇宙船作ってもらって、途中で故障してしまって、たまたま立ち寄ったのが地球だっていう宇宙人。シャイなのか、あんまりおしゃべりは得意じゃなかったけど。」

どうやら、ほのあは、事情をいろいろと知っているようでした。

「えーっ、知り合いなんだ。っていうか、この10分の間にそこまで謎解きしたってこと?よくわかんなくなってきた。」

ハヤトは、教室の天井を見上げ、頭をポリポリとかきました。

「まあ、いいじゃない。うふふふふふ。」

ほのあは、笑顔で答えいます。

「わっー!」

ハヤトは思わず大きな声を上げました。それもそのはずです。ほのあの笑い声が、今まで聞いてきた笑い声と一緒だったからです。

「どうしたの?」

ほのあが、たずねても

「いやなにも・・・。」

ハヤトは、自分自身を落ち着かせるようにそう答えました。

「じゃあ、宙太に合わせてあげるね。」

ほのあはそう言うと、にっこり笑って、指をパチンと鳴らしました。すると、今日3度目の金色のフラシュがピカッと光りました。

「まぶしっ」

ハヤトは、思わず目をつむりましたが、すぐに目を開けました。目を開けると、また、光の残像が残っていました。その残像は、残像なのに形を作りキラキラと光って、くるくると回り始めました。金色のような、白色のような光はやがて、濃い青色の光になってきました。そして、ハヤトと同じくらいの人間の形になってきました。

「うわー」

ハヤトは、声にならない声を出しながら、じっと眺めていました。やがて回転はゆるくなり、次第に青い光も弱くなっていき、回転が止まると同時に、そこには、男の子が立っていました。

「こんにちは、宙太です。」

宙太と名乗る男の子は、深々とお辞儀をしました。どうやら、ほのあが言っていた宇宙人のようです。

「はぁ、こんにちは。僕は、ハヤトです。」

ハヤトはそう返すのが精いっぱいでした。気が付くとほのあがいなくなっていました。

「ほのあさんから呼ばれてやってきました。よろしくお願いします。」

宙太はそう言って、右手を差し出してきました。

「こ、こちらこそよろしくお願いします。」

ハヤトは、棒人間スタイルで握手をするのはいやだなと思いながら右手を出して、握手をしました。するとどうでしょう。すでに、ハヤトは棒人間ではなく、いつもの体に戻っていたのです。

「どうゆうことやねん。」

と、わからないながらも、その状況に突っ込みを入れました。

「うふふふふ。」

また、笑い声が聞こえました。

「ハヤトさんが、ぼくを救ってくれるって聞いたんですけど、本当ですか?」

笑い声に気を取られていましたが、宙太にそうたずねられました。

「あ、いや、え、あの・・・」

シャイだって聞いてたのにめっちゃしゃべるなぁ、などと思いながらハヤトは、返事に困っていました。

「宇宙船が、壊れてしまったのです。直して、欲しいんです。」

宙太の顔は泣きそうです。

「わかった。わかった。直す直す。何とかするわ。」

ハヤトは、慌てて答えました。

「で、どうしたらいいのか、説明してほしいんだけど・・・」

ハヤトは、落ち着きを取り戻してたずねました。

「折り紙で、紙飛行機を折って欲しいのです。」

「へっ?」

ハヤトは、あまりにも予想外のことを言われて、鼻から抜けるような声を出してしまいました。

「地球に住んでいる子供たちは、誰でも折り紙を折ることができるという調査資料があります。私も折ることができるのですが、それでは、元の星には帰れないのです。ハヤトさん、あなたに折ってもらうには理由があるのです。」

宙太が、真剣に説明を始めました。ハヤトも、何とか助けたかったので、一生懸命話を聞きました。

「我々の星の文明をもってすれば、折りあがった紙飛行機にレーザーを当てるだけで、使用可能な宇宙船へ自動変形してくれます。簡単なことです。私は、父親に紙飛行機を折ってもらい、このレーザーを当てて宇宙船にして、宇宙を旅していたのです。ところが、私の不注意で宇宙ゴミにつばさを当ててしまい、飛ぶのがやっとという状況になってしまったのです。運よく、この地球に不時着したものの、着地時に機体も損傷して、もう使えなくなってしまったのです。」

「そこまでは、なんとなくわかったけど、なんで自分でも作れるのに、ぼくじゃないとだめなの?」

「それは、気持ちです。自分のために作った折り紙では、レーザーを当ててもきちんとした宇宙船には自動変形してくれないんだよ。自分の星の周りを飛ぶくらいのことはできるけど、宇宙を旅するとまではいかない。」

「なるほど、お父さんは、君に広い宇宙を見てきてほしいと願いながら折ったんだね。だから、宇宙旅行ができたってことでしょ。」

「そうそう。」

宙太は、うれしそうに答えました。ハヤトも、いつもならケンちゃんが言うようなセリフを自分も言えて、少し満足しています。

「だから、お願いです。僕が、元の星に帰れるようにって、願いながら紙飛行機を折って欲しい。」

宙太の目はうるうるしていました。

「だめだね。」

ハヤトは、きっぱりと言いました。

「え!?」

宙太も、突然断られてびっくりしています。

「ただで折るなんてできない。どうだい、今からみんなと遊ぼうじゃないか?その遊んでくれたお礼として、折り紙を折るっていうので。」

ハヤトは、そう言い終えてから、にたっと笑いました。

「もちろん。」

今まで泣きそうだった宙太の顔も、一気に笑顔になりました。

「じゃ、すぐ折るわ。もうずいぶん時間も経っちゃったし、折る前にタイムアップになったら意味ないじゃない。教室だから、僕の机の中から折り紙取り出せば、すぐできちゃうよ。」

そう言いながら、ハヤトはいつも自分が座っている机の中から折り紙ケースを取り出しました。

「何色がいい?」

折り紙をざっと机の上に並べて、宙太に聞きました。

「そうだな、青色で。」

宙太は、濃い青色の色紙を指さして言いました。

「ボーボー」

ハヤトは、了解と言いたかったのですが、思わずそう言ってしまいました。そして、手早く飛行機を折り、宙太に渡しました。

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」

宙太は、その紙飛行機をハヤトの机の上に置きました。

「じゃあ、時間まで遊ぼっか。」

ハヤトは、時計を見ながら言いました。時計の針は、550分を指しています。

「あと十分か・・・。運動場でサッカーでもやろっか、みんなも誘って。」

「いいよ。」

二人は、運動場まで降りてきました。相変わらずトンボがたくさん飛んでいました。太陽が、のんびりしてたら西の山の方へ沈んでしまうぞ、と言わんばかりの空になっていました。

「おーい、みんなぁ。宇宙人見つかったよ。救出もできそうだから、みんなで時間までサッカーやろう。」

ハヤトは、運動場の真ん中で大きな声で叫びました。方々から、リョータやカナタ、マキちゃんもサユリもやってきました。驚いたことに、みんな棒人間ではなくなっています。

「あれ、ほのあは?」

ハヤトは、教室にいたほのあのことを思い出して、みんなにたずねてみました。

「ほのあは、5時に間に合わなかったじゃないか。」

リョータが、むっとして答えました。

「そっか。」

ハヤトは、不思議だったけど話を合わせました。

「彼は、宇宙人の宙太。もう宇宙船も直したし、あとは遊ぶだけだから、6時までサッカーしようぜ。」

ハヤトは、みんなに宙太のことを紹介して、残り時間でサッカーしたいことを告げました。

「よしやろう。」

リョータもカナタも大賛成でした。

「ボーボー」

マキちゃんもサユリもそう言って敬礼してくれました。

みんなは、時間いっぱいまでサッカーをして楽しみました。時刻が6時になる直前に

―タイムアップです

という文字が、自分の前で点灯し始めました。

「うわ、もう6時か!?」

ハヤトは、気づくと同時に宙太を探しました。

「宙太!元気でな!」

と大きな声で言いました。

「ハヤト、ありがとう!」

宙太も大きな声で答えています。

「また、絶対会おうな!」

ハヤトが、そう言いかけたと同時に、また、フラッシュのような光がピカッと光りました。

気が付くと、ハヤトは自分の部屋に戻っていました。

 

次の日の朝、ハヤトの前にリョータがやってきました。

「なぁハヤト、昨日、何でボーボーやりに来なかったん?」

リョータは、怒ったように言ってきました。

「いやいやいや、行ったじゃん。みんな棒人間にさせられて、宇宙人助けるミッションが出て、最後、その宇宙人とサッカーして、、、、」

ハヤトが、話せば話すほど、リョータがきょとんとしています。

「えっ?ハヤト・・・、大丈夫か?ボーボーって、シューティングゲームだよ。」

リョータは、ぼそっと言いました。

「えーーーーっ!」

ハヤトは、大きな声を出してしまいました。

「うふふふふ」

遠くの席から、ほのあの笑い声が聞こえました。ハヤトが、ほのあの方に目をやると、

「ボーボー」

と口まねだけして、声にならない声を出して敬礼をしてきました。ハヤトも同じように

「ボーボー」

と口パクで言って、ほのあに敬礼しました。

「ハヤト、ほんまに大丈夫か?」

リョータが、もう一度ハヤトに聞きました。

「大丈夫に、決まってるわい。宇宙人助けた小学生じゃけん!わはははは!」

ハヤトは、大きな声で笑いました。その声につられてクラス中が、笑い声に包まれました。

 

December 22, 2020

ハヤトの不思議な色鉛筆(7:うすだいだい) 令和2年12月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第7話になりました。

今回は少しピッチを上げて書きました。

今回の色は、うすだいだい(→昔は、はだ色と呼ばれていた色です)です。

このお話(ハヤトの不思議な色鉛筆)は

クラスのみんなにちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソードを目標に

「心温まるお話」を子供目線でかいています。

7話まで来るとぐっとゴールが近づいてきた感じがします。

前作までのお話のリンクを張っておきますね。

ご笑覧ください。

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

ハヤトの不思議な色鉛筆(6:ピンク)

 

ハヤトの不思議な色鉛筆(7:うすだいだい)

ハヤトの学校の周りにも秋がやってきました。ついこの前まで、ハヤトのクラスのみんなは「暑い暑い」と言っていたのですが、もう「暑い」と言うような子はおらず、授業中でも休み時間でも、教室の窓を開けていると、さわやかな風が、ハヤトたちの頬をかすめるようになってきました。

「では、今日の国語の授業はここで終わりです。」

4年生のハヤトたちは、新見南吉の『ごんぎつね』を習っているのでした。『ごんぎつね』の中にも、秋の描写がたくさんあり、おそらく中秋の名月だろうと思われる満月の描写もあるので、先生は「9月のお話だろうね」と言っていた。

「なぁなぁ、ケンちゃん、ごんって何でうなぎ食べんかったんじゃろうな。うなぎのかば焼き食いてぇ~。うな重くいてぇ~。」

ハヤトは、ケンジに話かけると同時に、身振り手振りで、自分のうなぎ食べたいアピールをして見せました。

「ハヤト、授業聞いてたんか?先生も、兵十に申し訳なくて食べんかったって、言ってたじゃろ。」

ケンジが冷静に答えました。

「そうだっけ?魚好きの俺としては、うなぎのことが気になって、気になって、ずっとかば焼きとうな重が、頭のなかをぐるぐる回ってたから、聞いてなかったわ。」

「おいおい。」

「あはははは。」

ハヤトは、いつもの調子で、陽気に笑いました。

「なんかさ、国語の教科書のお話って、暗い話が多い気がするんだけど、、、」

笑っているハヤトに、ケンジが言いました。

「そうかな。」

ハヤトは、気のない返事をしました。

「だってさ、2年生の『スーホの白い馬』は、馬が死んで楽器になるし、三年生でやった『ちいちゃんのかげおくり』は、ちいちゃんが死んじゃうし、今やってる『ごんぎつね』なんか、ごんが鉄砲で撃たれるんだよ。ちょっと悲しくない?」

ハヤトは、「ケンちゃんの言ってることあってるかも」と思いましたが、

「まあ、ケンちゃんは、賢いしまじめだし考えすぎなんだよ。『おおきなかぶ』も『スイミー』もハッピーエンドじゃん。ハッピーでいこう、ハッピーで!」

と明るく答えました。

「ハヤトは、いいな。いつも幸せで、」

「あははははは。」

ハヤトは、なんだかほめめられているようで大きな声で笑いました。

 

その日、ハヤトは家に帰ると本棚から『スイミー』の絵本を取り出して、読んでみました。

「いいよな。ハッピーエンド。マグロを追い出したんだぜ、ちいさな魚のきょうだいたちは。」

そんなことをつぶやきました。すると

「うふふふふふ」

といつもの笑い声が聞こえました。

「ほら、ちゃんと反応してくれてる。やっぱりハッピーエンドなんだよ。」

ハヤトが絵本をパタンと閉じた瞬間、目の前に透明な魚が泳いでいました。

「こんにちは、魚君!」

ハヤトは、その透明な魚にあいさつしました。すると魚は回旋し、尾びれを左右に振りました。

「わぉ!犬みたいにしっぽふるんだ!」

ハヤトは大喜びです。よくよく眺めてみると、その魚は色がないだけで、スイミーに出てくる魚の兄弟たちと同じような形をしています。立体的ではなく、魚の形に切った紙がひらひら泳いでいるようにも見えます。ふちどりは黒色ではっきりわかりますが、中身は色がなく透明なのです。

「なんで、透明なんだろ?色ぬって欲しいのかな?」

ハヤトは、ふとそんなことをつぶやきました。

「う~ん。色といえば・・・」

と、色鉛筆の置いてある方へ目を向けました。すると、案の定、色鉛筆のケースがピカピカ光っています。

「うふふふふ。」

また、女の子の笑い声が聞こえました。

「ねぇ、いっつも笑ってばかりだけど、お話はできないの?」

ハヤトは、声の主にたずねてみました。

「うふふふふ。」

やはり、笑い声しか返ってきません。

「笑うだけなんかい!」

と、突っ込むと

「まだだめなの・・・・」

と、声が返ってきました。ハヤトが、とまどっていると

「・・・もう少し待っててね。」

と、返事が続きました。

「はい、はい。もう少々のことじゃ驚かないから、いつでもどうぞ。」

ハヤトは、びっくりしながらもそう答えました。色鉛筆の方をみると、一本だけケースから飛び出して、まぶしい光を放っています。

「お、何色なんだろ?」

そう思いながら、ハヤトはその色鉛筆に手を伸ばしました。ハヤトの手が、その色鉛筆に近づくのと、放っている光が弱まるのが、同時に起こりました。ハヤトの手に色鉛筆が収まるころには、すっかり光は失われて、見た目は普通の色鉛筆になっていました。

「何色だったんだろ?」

そう思って、ラベルを見ると【うすだいだい】と書いていました。

「うすだいだいかぁ・・・。先生が、昔は【はだ色】っていう色だった、て言ってたなぁ。」

まじまじと鉛筆を眺めていると、透明の魚がその周りを泳ぎ始めました。じっと見ていると魚の色が、一回りするごと変わり始めました。黒から茶色、茶色から赤、赤から白、白から黄色、黄色から黒という具合。黒になるとまた茶色へ、という具合に、黒、茶色、赤、白、黄色と5色の色に次から次へと変わります。

「なんだ、この黒、茶色、赤、白、黄色って・・・」

ハヤトは、考え込みました。ハヤトは、少しだけ「ケンちゃんなら、すぐわかるんだろうな」と思いました。

「うーん。これって、『カラスのパン屋さん』の兄弟といっしょ?」

ハヤトは、本棚に向かいました。そして、今度は『カラスのパン屋さん』を開きました。そして、一つずつ確かめるように

「黒はお父さんとお母さん、茶色はチョコちゃん、赤はリンゴちゃん、白はオモチちゃん、黄色はレモンちゃん、よな。あってるんよ。あってるけど、どういうことなん?」

色鉛筆の周りを泳いでいた魚が、急にまた透明になってキラキラ光りました。そして、ハヤトの手の中にある色鉛筆をつんつんと口で、突っつき始めました。つんつんという感触が、手に伝わってきます。釣りをしているときの釣り竿から伝わってくる感じによく似ています。

「ん?」

急に、クラスメイトのサワアキやヨシミツ、エミリの顔が浮かびました。

「これって・・・・、国のちがいなのかな。」

ハヤトの頭に浮かんだ三人は、国籍が日本ではなかったり、ハーフだったたりする友達だったのです。もう一度、魚がつんつんと色鉛筆をつつくと、魚はうすだいだいになりました。

「はだの色ってこと?」

魚は尾びれを左右に振りました。と同時に色鉛筆は宙に浮きました。そして、ハヤトの手から離れると光を放ち始めました。キラキラとまぶしいような優しい光です。そして、垂直に立った色鉛筆の周りを魚は回り始めました。うすだいだいの魚は、回転するごとに数を増やしていきます。しかも、うすだいだいの魚は一匹もおらず、黒い魚、茶色い魚、赤い魚、黄色い魚、白い魚、5つの色の魚がどんどん増えていくのです。本当は色鉛筆が中心なのに、うすだいだいの魚を中心として、大きな渦ができているような感じに見えます。ハヤトは、声も出さずにその様子を見守っています。無造作に見えていた魚の渦は、やがて列を作ってきました。新体操のリボンがくるくると回るように、あるいは、散髪屋さんの前に置いてあるくるくると回る看板のように、魚たちはダンスを踊るように泳いでいきます。そして、その列はやがて二本になりました。相変わらず中心には、光を放つうすだいだいの色鉛筆がいます。そして、うすだいだい色の魚は、いつの間にか透明に戻っていて、色鉛筆の周りをまわっています。そして、その外に、黒、茶、赤、黄、白の魚が、二本のらせん状になりながらぐるぐる回っています。どの魚も、きらきら光ります。ここは、ハヤトの部屋のはずなのに、海の底のようにも感じられます。

「うふふふふ。」

また、笑い声が聞こえました。

「わお。このタイミングかい!」

ハヤトは、その笑い声で少し我に返りました。とたんに、魚たちは、ぐるぐる回わりながら、天井の方へ泳いでいきます。そして、天井にたどりつかつかないかというところでパチパチ光を出しながら、順番に消えていきました。パチパチ光る様子は、海の底から花火を見ているようでした。

「おおおおおっつ!」

ハヤトは、大きな声をあげました。花火大会はしばらく続きましたが、やがて、最後の魚が天井へ消えていきました。ハヤトの目の前には、ぼんやり光るうすだいだいの色鉛筆と透明の魚が残っているだけでした。

「なんか、すごいね。」

ハヤトは、透明の魚に話しかけました。透明の魚は、尾びれを左右に振った後、シャボン玉が割れるように、パチンと割れて、消えていなくなりました。うすだいだいの色鉛筆は、ケースの方へ戻っていきました。

「うふふふ。」

また、笑い声が聞こえました。

「今日は、よー笑うなぁ。」

ハヤトは、声の主に突っ込みました。

「うふふふふ。」

やはり、笑い声が返ってくるだけでした。

ハヤトは、もう一度『スイミー』と『カラスのパン屋さん』を読むことにしました。

December 13, 2020

ハヤトの不思議な色鉛筆(6 ピンク)  令和2年12月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第6話まで書けました。

今回は、ピンク色です。

毎回、クラスのみんなにちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソードを目標に

「心温まるお話」を子供目線でかいています。

参考までに前作までをリンク張っておきます。

そろそろ、「本気で出版社検討し始めないと・・・」と思っています。

児童書として、出してくれそうな出版社ご存じの方

紹介してくださーい!!

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

 

ハヤトの不思議な色鉛筆(6 ピンク)

 

9月になりました。今日は、始業式です。    

ハヤトの教室にも、日焼けしたクラスメイトが続々と登校し、夏休みのできごとを口々に話しています。

「なぁなぁ、俺、昨日、流れ星みたんよ!!」

教室に入るなり大きな声でリョウタが言いました。

「えー!すごーい!」

「いいなあ。いいなぁ。」

教室がざわつきました。

「りょーた!また、カッコつけて、そんなこと言ってるだけなんじゃない?」

カナタが、リョウタに突っ込んでいます。教室が、笑いに包まれました。

「そんなことねーし、ほんとに見たんだって、、、」

リョウタは必死に答えました。

「なぁなぁ、ハヤト。今のりょーたの話ほんとだと思う?」

となりに座っているケンジが、ハヤトに話しかけてきました。

「よう、わからん。ほんとうかもしれんし、りょうたの冗談かもしれん。」

ハヤトは、ケンジの問いかけに、どう答えていいかわからず、どっちつかずの返事をしました。ハヤトは、「いつもの冷静沈着なケンちゃんじゃないな」と思っていました。そんなことを思っていると

キーン コーン カーン コーン

2学期が始まるチャイムが鳴りました。教室のドアが開き、先生が入ってきました。その後ろには女の子が立っています。

「あ、転校生じゃない?」

女の子の誰かが、つぶやいたのが聞こえました。

「先生!転校生ですか?」

アイコが先生にたずねました。

「はいはい、その前に、しっかり朝のあいさつをしましょう。」

先生は、そう言って、日直に号令をかけるようにうながしました。

「おはようございます。」

大きな声でみんながあいさつをしました。先生の横で、女の子はうつむいたまま、顔も上げずにじっとしています。みんなも、先生がどんなふうに紹介するのかをじっと待っています。

「さ、みんな顔をあげて前を向いてほしい。2学期からうちのクラスに新しいお友達が加わりました。名前は、西條ほのあさんです。西條さんは、お父さんのお仕事の関係で、東京から引っ越してきました。まだまだ、この学校のことも、この町のことも知らないと思うから、みんな仲良くしてくださいね。」

「はーい。」

先生の言葉の中で「東京」という言葉が出たときに、一瞬クラスがざわつきましたが、みんな大きな返事をしました。

「では、自己紹介してもらえますか。西條さん。」

先生は、まだうつむいている西條さんに、やさしく言いました。

西條さんは、ひと呼吸おいて、

「はい。」

と返事をしました。その声は、今までうつむいていた女の子とは思えないくらい、はっきりと大きな、元気のよい声でした。

「みなさん、おはようございます。東京から来た西條ほのあです。東京とちがって、朝起きたらたくさんの鳥の鳴き声が聞こえるこの街がとても好きになりました。みなさん、よろしくお願いします。私のことは、遠慮なく下の名前で、ほのあって呼んでください。」

ほのあは、そういうとペコリとお辞儀をしました。

「なぁなぁ、東京って鳥の鳴き声せんのん?」

ユウキが、教室の一番後ろの席から大きな声でたずねました。

「東京にも鳥はいるわ。でも、鳴き声が聞こえるのは、カラスとハトくらいなの。」

「かぁーかぁー」

ハヤトは、すかさずカラスの鳴きまねをしました。クラスが、また笑いに包まれました。ほのあもつられて笑っています。これまで緊張気味だった表情が笑顔になりました。ハヤトは、ケンジに向かって、小さくガッツポーズをしました。しかし、ケンジはうわの空です。いつもなら、ニヤついてグーパンチの真似をしてくれるのに、今日は、黒板の方に顔を向けたままです。

「では、ほのあさん。最近何か良かったことを一つお話してもらえますか?できれば、昨日の今の時間からで考えてもらえるといいかなぁ。」

先生も「ほのあさん」と呼び、自己紹介に一つ項目を加えました。ほのあの顔が、一瞬ニコッとなりました。何か特別いいことを思いついたようにも見えました。

「昨日の夜、流れ星を見たことです。」

ほのあはそこまでを一言でいい、目をつむりました。そして、ひと呼吸おいてから目を開け

「私、流れ星見たの初めてだったし、すっごくきれいだったの!」

と、付け足しました。ほんとにうれしそうで、それを見ているみんなもとてもうれしそうでした。

「うふふふ。」

ほのあは、思い出し笑いが止まらないようです。

「ん?」

ハヤトは、「この笑い声、いつも空から降ってくる笑い声に似ているかも」と思いました。そして、ケンジの方へ顔を向けました。しかし、ケンジは、相変わらず黒板の方へ顔をむけ、ぼーっとしたまんまです。

「では、席はユウキ君の隣が空いてるから、そこへ座ってください。」

先生は、一番後ろのユウキの席の隣をほのあの席にしました。

「いいな、ゆうき。」

カナタが大きな声で言いました。

「ごめんね、さっきは変な質問してしまって・・・・」

ユウキは、カナタの声をスルーして、ほのあにあやまりました。

「いえいえ、こちらこそありがとう。あの後のかぁー、かぁーにとても助けられたのよ。」

その会話を聞いていたハヤトが、また大きな声で

「かぁー、かぁー」

とカラスの鳴きまねをしました。クラスは、再び笑いに包まれました。

 

2学期の初日は、あっという間に終わりそうです。普段なら、長く長く感じられる始業式ですが、ハヤトは朝から二度も「かぁー、かぁー」でクラスを笑わすことができて、ご満悦だったのです。校長先生のお話を聞いている最中も、頭の中で「かぁー、かぁー」と繰り返し、一人でニヤついていたからです。式が終わり、教室に帰ってきても、宿題を集めたり、二学期の予定を先生が話したりするうちに、もう下校の時間になりました。今日一日、ユウキとほのあの周りには、ちょっとの時間でも人が集まっていました。そこには、リサやマヤ、アイコに加えて、カナタもいました。近所の公園の話や駄菓子屋の話、河原のグランドでやっているサッカーの練習のことなんかを、みんながかわるがわる話していました、ほのあは、「へー」「すごーい」「おもしろい」などと合図地を打ち、笑顔で過ごしていました。そんな学校での一日が終わり、帰りのあいさつの時間になったのです。

「さようなら。」

と、みんなの声が教室にこだましました。

 

「さ、けんちゃん帰るでぇ。」

いつもなら、ケンジの方が早く帰りの支度を済ませハヤトに声をかけるのですが、今日はハヤトの方が早くて、ケンジに声をかけました。

「う、うん。」

ケンジは、いつもとは違う低いトーンの声で答えました。

「ケンちゃん、夏バテか?かぁ、かぁ~。あははは。」

ハヤトは、またカラスの鳴きまねをして、自分でけらけら笑っていました。

「ハヤト、またね。さようなら。」

けらけら笑っているハヤトの後ろから、ほのあが声をかけて、とおり過ぎていきました。

「おー、また明日な。」

ハヤトは、ほのあにそう言いました。とっさにそう答えるのが精一杯だったのです。で、そのあとに、

「かぁ、かぁ~。」

とカラスの鳴きまねをしました。ほのあは振り向いて、ニコッと笑うだけで、そのまま行ってしまいました。

「さ、ケンちゃん帰ろ。」

ハヤトは、今一度ケンジに声をかけました。ケンジは、前を向いたままぼーっと立ったままでした。

「ケンちゃん、大丈夫か?」

ハヤトは、ケンジの前に立ち、目を見てたずねました。

「お、おお、大丈夫、大丈夫。」

ケンジは、我に返ってそう答えました。

「ケンちゃん、いつもと違うでぇ。」

ハヤトは、心配そうにケンジを見つめました。

「そ、そうか、、、う、うん。」

ケンジは、歯切れの悪い返事をしただけです。

「まあ、帰りにうちによって、ゲームでもしよっか、まだまだ暑いし、麦茶でもくぅーっと飲みながらさ。」

ハヤトは、いつもと違うケンジに気を使う感じで、さそってみました。

「じゃ、そうさせてもらうわ。」

ケンジにいつもの笑顔が少しだけ戻ってきたように感じられ、ハヤトはほっとしました。

「じゃ、家まで競争な。かぁ、かぁ~。」

といって、ハヤトはかけ出しました。

「ちょ、ちょっと待ってよぉ~」

ケンジは、ハヤトの後を追いかけました。

 

ハヤトの家に着くと、ハヤトのお母さんが出迎えてくれました。

「母さんただいま。ケンちゃんが来てるんよ。」

「お帰りハヤト。ケンちゃんこんにちは。」

「こんにちは。」

ケンジは、ハヤトのお母さんにあいさつをしました。

「あら、ケンちゃん。いつもの元気がないわね。何か悩みでもあるような感じに見えるわよ。」

ハヤトのお母さんにそう言われると、ケンジの顔がぽっと赤くなりました。

「まぁ、まぁ、母さんは心配せんでいいから。」

ハヤトは、そう言ってケンジと二人で自分の部屋へ向かいました。そして、

「麦茶とおやつよろしくね。」

と、言いそえました。

「はいはい。すぐにもっていくわね。」

とハヤトのお母さんは、笑顔で答えました。

 

部屋に入ると二人はカバンを下ろし、机を真ん中にして腰を下ろしました。

「ケンちゃん、ほんまに大丈夫なん?」

ハヤトは、もう一度たずねました。

「う、うん。たぶん。」

ケンジはもじもじしながら答えました。

「たぶんって、どゆこと?」

ハヤトは、なんだかますます心配になりました。

「えっと、あの~、う~ん。」

ケンジは、言葉にできず、耳を真っ赤にしています。そのとき、

「麦茶とロールケーキよ。」

と、ハヤトのお母さんが入ってきました。

「わお!」

ハヤトは、ロールケーキにくぎ付けです。

「ケンちゃんが、そんなにもじもじしているということは、・・・・」

と、ハヤトのお母さんが話始めました。

「恋のやまいなんじゃない?例えば・・・、かわいらしい転校生がやってきて、ひとめぼれしたとか・・・。」

麦茶とロールケーキのお盆を机に置きながら、そう言うと、ケンジの耳がますます赤くなっていきます。

「うーん。ちがうのかなぁ。っていうか、転校生が来たって話、聞いてないし、おばちゃんの想像だからね。ケンちゃん、ゆっくりしていってね。」

ハヤトのお母さんは、言いたいことだけ言って出て行ってしまいました。バタンと戸の閉まる音と同時に、ケンジが、「ふぅ~」と息を吐きました。

「心臓が止まるかと思った。」

顔を赤くしたまま、ケンジが言いました。

「うちの母さんと話して、心臓止まったら、うちの母さん殺人犯じゃん!」

とハヤトが突っ込みをいれました。

「いやいや、おばさんすげぇな。ほんまびっくりしたわ。」

ケンジは、やや冷静さを取り戻して、いつもの口調に戻ってきました。

「ん、どういうことかしら?」

ハヤトは、少しおちゃらけて聞いてみました。

「おばさんの言ってることほんとなんだよ。ああいう風に言ってもらって、ちょっとすっきりしたわ。」

ハヤトは、しばらく考えてから

「え~っ!」

とびっくりしました。

「つまり、ケンちゃんは、今日うちのクラスに転校してきた西條ほのあさんに、ひとめぼれしたってこと?」

ハヤトが、いつもよりゆっくり丁寧に話しながらケンジに聞いてみました。ケンジは、何も言わず、大きくうなずきました。しばらく沈黙が続きましたが、

「ロールケーキ、いただくよ。」

とケンジが口を切りました。

「ほんまじゃ、俺も食う。」

と二人して、ロールケーキを食べ始めました。二くち目を食べ終えたあと、

「ケンちゃんさ、じゃあさ、その気持ちを西條さんに伝えたいってわけ?」

とハヤトが聞いてみました。

「う~ん。よくわからん。」

ケンジはすっかり冷静さを取り戻して、答えました。

「わからんのんかい!」

と、ハヤトもいつもの調子を取り戻して、突っ込みを入れました。

「わからんのだけど・・・」

「だけど、どうなん?」

「あのさ、、、、、西條さんのことを、、、、下の名前で呼んでみたい。」

ケンジの口調は冷静でしたが、また耳が赤くなりました。

「おう、そうゆことなら、すぐできるじゃん。ほんにんもほのあって呼んで、って言ってたし、呼べない理由ないじゃん。」

「そりゃそうだけど・・・。はずかしいじゃん。」

「そうかなぁ・・・」

ハヤトは、そんなケンジの気持ちがわからずに不思議がっていました。

「そうだよ。でさ、ハヤトは、かぁ~、かぁ~ってやって、名前も覚えてもらって、“ハヤト、またね。”なんて言ってもらってるからいいけど、ぼくは、絡みゼロだから・・・なんかね・・・。」

ケンジはそう言うと、ゴクリとのどを鳴らして麦茶を飲みました。

「そんなもんかなぁ。俺なんか、明日の朝でも“おはよう!ほのあ”って言えるよ。ケンちゃん、カッコつけすぎじゃない?」

ハヤトも、ケンジと同じように麦茶をゴクリと飲みました。すると・・・

コツ・コツ・コツ

と物音がします。二人が音のする方へ目をやると勉強机の上で色鉛筆たちが踊っています。

「うわぁ。」

「うわぁ。」

二人が同時に声をあげると、色鉛筆たちはいっせいにケースの中へ帰っていきました。ただ一本、ピンク色の鉛筆だけが、その場にとどまっていました。ピンク色の色鉛筆は、ふわふわと空中を飛びながら、二人の前でぴたっと止まりました。そして、空中に

【ハ ヤ ト】

と、カタカナで三文字書きました。

「おいおい、ピンク色でハヤトってなんだよぉ~。」

ハヤトが突っ込みを入れました。

「いやいや、何かメッセージかもしれないよ。」

ケンジは、冷静に答えました。すると真中の【ヤ】の文字がふわふわと離れていき、弓矢の矢の形になりました。

「おいおい、ピンク色の矢でどうするんだい?」

またまた、ハヤトは突っ込みを入れました。ケンジは、だまってずっと見ています。今度は、残された【ハ】と【ト】の間に、横棒が現れました。

「ん?ハートってこと?」

ハヤトがつぶやきました。すると【ハート】となった文字はくるくる渦を巻き、ピンク色の光を放ちながら立体のハートの形なりました。

「わお!【ハート】がハートになった!」

ハヤトは大はしゃぎです。すると、そのハートめがけて先ほどのピンクの矢が勢いよく飛んできて、ちょうど右上から左下を貫くように刺さったのです。刺さったと同時に、またまたピンク色の光を放ちながらくるくる回り始めました。ただ、今度はものすごく早く回っているはずなのに、もともとの矢の刺さったハートの形はくっきりと見えているのです。

「うわぁ~。」

「うわぁ~。」

二人は、そんな声をもらしながら、ハートがくるくる回るのを眺めていました。穏やかなやさしい光と癒しをもたらすようなハートの回転に、二人はここがハヤトの部屋だということも、目の前に麦茶と食べかけのロールケーキがあることも忘れてしまうほどに見とれていました。やがて、そのハートはだんだんケンジの方に近づいていきました。二人は、手も声も出せない状態で、その様子を目で追うことしかできません。やがて、そのハートは光を弱めながら、回転のスピードも落としながら、ケンジの左胸のあたりまで来て、すーっうとケンジの中に入ってしまいました。

「うふふふふ」

ハヤトには、いつもの笑い声が聞こえました。どうやらケンジには、聞こえなかったようです。しばらくして、二人は、目を合わせました。目の前で起こっていることが、どうやらここでおしまい、ということを二人で確認したかったようです。

「なんか、すごかったなぁ。」ハヤトが言いました。

「なんか、すごかったね。」ケンジが答えました。

「これで、明日いけるんちゃう?」ハヤトが、ケンジにたずねました。

「これで、明日いける気がするわ!」ケンジが答えました。

「じゃあさ、明日のおはようの練習したら、こうやって片手あげて、“おはよう。ほのあ!”って。まあ、俺はすぐできるけど。」

ハヤトが、やって見せました。するとケンジはそれに答えて、

「じゃあ、いくよ。お、お、お、おはよう!ほのあ!」

右手を挙げて、大きな声で言いました。そのときです、ガチャっと部屋のドアが開きました。

「麦茶のおかわり、いるかしら?」

と、ハヤトのお母さんが入ってきたのです。ケンジは、片手をあげたまま、またまた耳を真っ赤にしました。

「あら?なんの練習?」

キョトンとするハヤトのお母さんに、ハヤトは

「母さん、やっぱりすげーわ」と言いました。

「おばさん、なんかすごいですね。」とケンジが言いました。ハヤトのお母さんは、何が何だかわからないまま、「あはははは」と笑い出しました。と同時にハヤトもケンジも、大声で笑い始めました。

ピンク色の色鉛筆は、ハヤトのお母さんに気づかれないように、そっとケースに戻りました。

ハヤトの不思議な色鉛筆(6 ピンク)  令和2年12月の作品

ハヤトの不思議な色鉛筆のシリーズも、第6話まで書けました。

今回は、ピンク色です。

毎回、クラスのみんなにちょっとずつアイディアをもらいながら書いているファンタジーです。

12色で、12エピソードを目標に

「心温まるお話」を子供目線でかいています。

参考までに前作までをリンク張っておきます。

そろそろ、「本気で出版社検討し始めないと・・・」と思っています。

児童書として、出してくれそうな出版社ご存じの方

紹介してくださーい!!

ハヤトの不思議な色鉛筆(1:赤)

ハヤトの不思議な色鉛筆(2:緑)

ハヤトの不思議な色鉛筆(3:だいだい)

ハヤトの不思議な色鉛筆(4:黄緑) 

 ハヤトの不思議な色鉛筆(5:茶)

 

ハヤトの不思議な色鉛筆(6 ピンク)

 

9月になりました。今日は、始業式です。    

ハヤトの教室にも、日焼けしたクラスメイトが続々と登校し、夏休みのできごとを口々に話しています。

「なぁなぁ、俺、昨日、流れ星みたんよ!!」

教室に入るなり大きな声でリョウタが言いました。

「えー!すごーい!」

「いいなあ。いいなぁ。」

教室がざわつきました。

「りょーた!また、カッコつけて、そんなこと言ってるだけなんじゃない?」

カナタが、リョウタに突っ込んでいます。教室が、笑いに包まれました。

「そんなことねーし、ほんとに見たんだって、、、」

リョウタは必死に答えました。

「なぁなぁ、ハヤト。今のりょーたの話ほんとだと思う?」

となりに座っているケンジが、ハヤトに話しかけてきました。

「よう、わからん。ほんとうかもしれんし、りょうたの冗談かもしれん。」

ハヤトは、ケンジの問いかけに、どう答えていいかわからず、どっちつかずの返事をしました。ハヤトは、「いつもの冷静沈着なケンちゃんじゃないな」と思っていました。そんなことを思っていると

キーン コーン カーン コーン

2学期が始まるチャイムが鳴りました。教室のドアが開き、先生が入ってきました。その後ろには女の子が立っています。

「あ、転校生じゃない?」

女の子の誰かが、つぶやいたのが聞こえました。

「先生!転校生ですか?」

アイコが先生にたずねました。

「はいはい、その前に、しっかり朝のあいさつをしましょう。」

先生は、そう言って、日直に号令をかけるようにうながしました。

「おはようございます。」

大きな声でみんながあいさつをしました。先生の横で、女の子はうつむいたまま、顔も上げずにじっとしています。みんなも、先生がどんなふうに紹介するのかをじっと待っています。

「さ、みんな顔をあげて前を向いてほしい。2学期からうちのクラスに新しいお友達が加わりました。名前は、西條ほのあさんです。西條さんは、お父さんのお仕事の関係で、東京から引っ越してきました。まだまだ、この学校のことも、この町のことも知らないと思うから、みんな仲良くしてくださいね。」

「はーい。」

先生の言葉の中で「東京」という言葉が出たときに、一瞬クラスがざわつきましたが、みんな大きな返事をしました。

「では、自己紹介してもらえますか。西條さん。」

先生は、まだうつむいている西條さんに、やさしく言いました。

西條さんは、ひと呼吸おいて、

「はい。」

と返事をしました。その声は、今までうつむいていた女の子とは思えないくらい、はっきりと大きな、元気のよい声でした。

「みなさん、おはようございます。東京から来た西條ほのあです。東京とちがって、朝起きたらたくさんの鳥の鳴き声が聞こえるこの街がとても好きになりました。みなさん、よろしくお願いします。私のことは、遠慮なく下の名前で、ほのあって呼んでください。」

ほのあは、そういうとペコリとお辞儀をしました。

「なぁなぁ、東京って鳥の鳴き声せんのん?」

ユウキが、教室の一番後ろの席から大きな声でたずねました。

「東京にも鳥はいるわ。でも、鳴き声が聞こえるのは、カラスとハトくらいなの。」

「かぁーかぁー」

ハヤトは、すかさずカラスの鳴きまねをしました。クラスが、また笑いに包まれました。ほのあもつられて笑っています。これまで緊張気味だった表情が笑顔になりました。ハヤトは、ケンジに向かって、小さくガッツポーズをしました。しかし、ケンジはうわの空です。いつもなら、ニヤついてグーパンチの真似をしてくれるのに、今日は、黒板の方に顔を向けたままです。

「では、ほのあさん。最近何か良かったことを一つお話してもらえますか?できれば、昨日の今の時間からで考えてもらえるといいかなぁ。」

先生も「ほのあさん」と呼び、自己紹介に一つ項目を加えました。ほのあの顔が、一瞬ニコッとなりました。何か特別いいことを思いついたようにも見えました。

「昨日の夜、流れ星を見たことです。」

ほのあはそこまでを一言でいい、目をつむりました。そして、ひと呼吸おいてから目を開け

「私、流れ星見たの初めてだったし、すっごくきれいだったの!」

と、付け足しました。ほんとにうれしそうで、それを見ているみんなもとてもうれしそうでした。

「うふふふ。」

ほのあは、思い出し笑いが止まらないようです。

「ん?」

ハヤトは、「この笑い声、いつも空から降ってくる笑い声に似ているかも」と思いました。そして、ケンジの方へ顔を向けました。しかし、ケンジは、相変わらず黒板の方へ顔をむけ、ぼーっとしたまんまです。

「では、席はユウキ君の隣が空いてるから、そこへ座ってください。」

先生は、一番後ろのユウキの席の隣をほのあの席にしました。

「いいな、ゆうき。」

カナタが大きな声で言いました。

「ごめんね、さっきは変な質問してしまって・・・・」

ユウキは、カナタの声をスルーして、ほのあにあやまりました。

「いえいえ、こちらこそありがとう。あの後のかぁー、かぁーにとても助けられたのよ。」

その会話を聞いていたハヤトが、また大きな声で

「かぁー、かぁー」

とカラスの鳴きまねをしました。クラスは、再び笑いに包まれました。

 

2学期の初日は、あっという間に終わりそうです。普段なら、長く長く感じられる始業式ですが、ハヤトは朝から二度も「かぁー、かぁー」でクラスを笑わすことができて、ご満悦だったのです。校長先生のお話を聞いている最中も、頭の中で「かぁー、かぁー」と繰り返し、一人でニヤついていたからです。式が終わり、教室に帰ってきても、宿題を集めたり、二学期の予定を先生が話したりするうちに、もう下校の時間になりました。今日一日、ユウキとほのあの周りには、ちょっとの時間でも人が集まっていました。そこには、リサやマヤ、アイコに加えて、カナタもいました。近所の公園の話や駄菓子屋の話、河原のグランドでやっているサッカーの練習のことなんかを、みんながかわるがわる話していました、ほのあは、「へー」「すごーい」「おもしろい」などと合図地を打ち、笑顔で過ごしていました。そんな学校での一日が終わり、帰りのあいさつの時間になったのです。

「さようなら。」

と、みんなの声が教室にこだましました。

 

「さ、けんちゃん帰るでぇ。」

いつもなら、ケンジの方が早く帰りの支度を済ませハヤトに声をかけるのですが、今日はハヤトの方が早くて、ケンジに声をかけました。

「う、うん。」

ケンジは、いつもとは違う低いトーンの声で答えました。

「ケンちゃん、夏バテか?かぁ、かぁ~。あははは。」

ハヤトは、またカラスの鳴きまねをして、自分でけらけら笑っていました。

「ハヤト、またね。さようなら。」

けらけら笑っているハヤトの後ろから、ほのあが声をかけて、とおり過ぎていきました。

「おー、また明日な。」

ハヤトは、ほのあにそう言いました。とっさにそう答えるのが精一杯だったのです。で、そのあとに、

「かぁ、かぁ~。」

とカラスの鳴きまねをしました。ほのあは振り向いて、ニコッと笑うだけで、そのまま行ってしまいました。

「さ、ケンちゃん帰ろ。」

ハヤトは、今一度ケンジに声をかけました。ケンジは、前を向いたままぼーっと立ったままでした。

「ケンちゃん、大丈夫か?」

ハヤトは、ケンジの前に立ち、目を見てたずねました。

「お、おお、大丈夫、大丈夫。」

ケンジは、我に返ってそう答えました。

「ケンちゃん、いつもと違うでぇ。」

ハヤトは、心配そうにケンジを見つめました。

「そ、そうか、、、う、うん。」

ケンジは、歯切れの悪い返事をしただけです。

「まあ、帰りにうちによって、ゲームでもしよっか、まだまだ暑いし、麦茶でもくぅーっと飲みながらさ。」

ハヤトは、いつもと違うケンジに気を使う感じで、さそってみました。

「じゃ、そうさせてもらうわ。」

ケンジにいつもの笑顔が少しだけ戻ってきたように感じられ、ハヤトはほっとしました。

「じゃ、家まで競争な。かぁ、かぁ~。」

といって、ハヤトはかけ出しました。

「ちょ、ちょっと待ってよぉ~」

ケンジは、ハヤトの後を追いかけました。

 

ハヤトの家に着くと、ハヤトのお母さんが出迎えてくれました。

「母さんただいま。ケンちゃんが来てるんよ。」

「お帰りハヤト。ケンちゃんこんにちは。」

「こんにちは。」

ケンジは、ハヤトのお母さんにあいさつをしました。

「あら、ケンちゃん。いつもの元気がないわね。何か悩みでもあるような感じに見えるわよ。」

ハヤトのお母さんにそう言われると、ケンジの顔がぽっと赤くなりました。

「まぁ、まぁ、母さんは心配せんでいいから。」

ハヤトは、そう言ってケンジと二人で自分の部屋へ向かいました。そして、

「麦茶とおやつよろしくね。」

と、言いそえました。

「はいはい。すぐにもっていくわね。」

とハヤトのお母さんは、笑顔で答えました。

 

部屋に入ると二人はカバンを下ろし、机を真ん中にして腰を下ろしました。

「ケンちゃん、ほんまに大丈夫なん?」

ハヤトは、もう一度たずねました。

「う、うん。たぶん。」

ケンジはもじもじしながら答えました。

「たぶんって、どゆこと?」

ハヤトは、なんだかますます心配になりました。

「えっと、あの~、う~ん。」

ケンジは、言葉にできず、耳を真っ赤にしています。そのとき、

「麦茶とロールケーキよ。」

と、ハヤトのお母さんが入ってきました。

「わお!」

ハヤトは、ロールケーキにくぎ付けです。

「ケンちゃんが、そんなにもじもじしているということは、・・・・」

と、ハヤトのお母さんが話始めました。

「恋のやまいなんじゃない?例えば・・・、かわいらしい転校生がやってきて、ひとめぼれしたとか・・・。」

麦茶とロールケーキのお盆を机に置きながら、そう言うと、ケンジの耳がますます赤くなっていきます。

「うーん。ちがうのかなぁ。っていうか、転校生が来たって話、聞いてないし、おばちゃんの想像だからね。ケンちゃん、ゆっくりしていってね。」

ハヤトのお母さんは、言いたいことだけ言って出て行ってしまいました。バタンと戸の閉まる音と同時に、ケンジが、「ふぅ~」と息を吐きました。

「心臓が止まるかと思った。」

顔を赤くしたまま、ケンジが言いました。

「うちの母さんと話して、心臓止まったら、うちの母さん殺人犯じゃん!」

とハヤトが突っ込みをいれました。

「いやいや、おばさんすげぇな。ほんまびっくりしたわ。」

ケンジは、やや冷静さを取り戻して、いつもの口調に戻ってきました。

「ん、どういうことかしら?」

ハヤトは、少しおちゃらけて聞いてみました。

「おばさんの言ってることほんとなんだよ。ああいう風に言ってもらって、ちょっとすっきりしたわ。」

ハヤトは、しばらく考えてから

「え~っ!」

とびっくりしました。

「つまり、ケンちゃんは、今日うちのクラスに転校してきた西條ほのあさんに、ひとめぼれしたってこと?」

ハヤトが、いつもよりゆっくり丁寧に話しながらケンジに聞いてみました。ケンジは、何も言わず、大きくうなずきました。しばらく沈黙が続きましたが、

「ロールケーキ、いただくよ。」

とケンジが口を切りました。

「ほんまじゃ、俺も食う。」

と二人して、ロールケーキを食べ始めました。二くち目を食べ終えたあと、

「ケンちゃんさ、じゃあさ、その気持ちを西條さんに伝えたいってわけ?」

とハヤトが聞いてみました。

「う~ん。よくわからん。」

ケンジはすっかり冷静さを取り戻して、答えました。

「わからんのんかい!」

と、ハヤトもいつもの調子を取り戻して、突っ込みを入れました。

「わからんのだけど・・・」

「だけど、どうなん?」

「あのさ、、、、、西條さんのことを、、、、下の名前で呼んでみたい。」

ケンジの口調は冷静でしたが、また耳が赤くなりました。

「おう、そうゆことなら、すぐできるじゃん。ほんにんもほのあって呼んで、って言ってたし、呼べない理由ないじゃん。」

「そりゃそうだけど・・・。はずかしいじゃん。」

「そうかなぁ・・・」

ハヤトは、そんなケンジの気持ちがわからずに不思議がっていました。

「そうだよ。でさ、ハヤトは、かぁ~、かぁ~ってやって、名前も覚えてもらって、“ハヤト、またね。”なんて言ってもらってるからいいけど、ぼくは、絡みゼロだから・・・なんかね・・・。」

ケンジはそう言うと、ゴクリとのどを鳴らして麦茶を飲みました。

「そんなもんかなぁ。俺なんか、明日の朝でも“おはよう!ほのあ”って言えるよ。ケンちゃん、カッコつけすぎじゃない?」

ハヤトも、ケンジと同じように麦茶をゴクリと飲みました。すると・・・

コツ・コツ・コツ

と物音がします。二人が音のする方へ目をやると勉強机の上で色鉛筆たちが踊っています。

「うわぁ。」

「うわぁ。」

二人が同時に声をあげると、色鉛筆たちはいっせいにケースの中へ帰っていきました。ただ一本、ピンク色の鉛筆だけが、その場にとどまっていました。ピンク色の色鉛筆は、ふわふわと空中を飛びながら、二人の前でぴたっと止まりました。そして、空中に

【ハ ヤ ト】

と、カタカナで三文字書きました。

「おいおい、ピンク色でハヤトってなんだよぉ~。」

ハヤトが突っ込みを入れました。

「いやいや、何かメッセージかもしれないよ。」

ケンジは、冷静に答えました。すると真中の【ヤ】の文字がふわふわと離れていき、弓矢の矢の形になりました。

「おいおい、ピンク色の矢でどうするんだい?」

またまた、ハヤトは突っ込みを入れました。ケンジは、だまってずっと見ています。今度は、残された【ハ】と【ト】の間に、横棒が現れました。

「ん?ハートってこと?」

ハヤトがつぶやきました。すると【ハート】となった文字はくるくる渦を巻き、ピンク色の光を放ちながら立体のハートの形なりました。

「わお!【ハート】がハートになった!」

ハヤトは大はしゃぎです。すると、そのハートめがけて先ほどのピンクの矢が勢いよく飛んできて、ちょうど右上から左下を貫くように刺さったのです。刺さったと同時に、またまたピンク色の光を放ちながらくるくる回り始めました。ただ、今度はものすごく早く回っているはずなのに、もともとの矢の刺さったハートの形はくっきりと見えているのです。

「うわぁ~。」

「うわぁ~。」

二人は、そんな声をもらしながら、ハートがくるくる回るのを眺めていました。穏やかなやさしい光と癒しをもたらすようなハートの回転に、二人はここがハヤトの部屋だということも、目の前に麦茶と食べかけのロールケーキがあることも忘れてしまうほどに見とれていました。やがて、そのハートはだんだんケンジの方に近づいていきました。二人は、手も声も出せない状態で、その様子を目で追うことしかできません。やがて、そのハートは光を弱めながら、回転のスピードも落としながら、ケンジの左胸のあたりまで来て、すーっうとケンジの中に入ってしまいました。

「うふふふふ」

ハヤトには、いつもの笑い声が聞こえました。どうやらケンジには、聞こえなかったようです。しばらくして、二人は、目を合わせました。目の前で起こっていることが、どうやらここでおしまい、ということを二人で確認したかったようです。

「なんか、すごかったなぁ。」ハヤトが言いました。

「なんか、すごかったね。」ケンジが答えました。

「これで、明日いけるんちゃう?」ハヤトが、ケンジにたずねました。

「これで、明日いける気がするわ!」ケンジが答えました。

「じゃあさ、明日のおはようの練習したら、こうやって片手あげて、“おはよう。ほのあ!”って。まあ、俺はすぐできるけど。」

ハヤトが、やって見せました。するとケンジはそれに答えて、

「じゃあ、いくよ。お、お、お、おはよう!ほのあ!」

右手を挙げて、大きな声で言いました。そのときです、ガチャっと部屋のドアが開きました。

「麦茶のおかわり、いるかしら?」

と、ハヤトのお母さんが入ってきたのです。ケンジは、片手をあげたまま、またまた耳を真っ赤にしました。

「あら?なんの練習?」

キョトンとするハヤトのお母さんに、ハヤトは

「母さん、やっぱりすげーわ」と言いました。

「おばさん、なんかすごいですね。」とケンジが言いました。ハヤトのお母さんは、何が何だかわからないまま、「あはははは」と笑い出しました。と同時にハヤトもケンジも、大声で笑い始めました。

ピンク色の色鉛筆は、ハヤトのお母さんに気づかれないように、そっとケースに戻りました。

«ハヤトの不思議な色鉛筆(5) さくまけんじ  令和2年10月の作品

My Photo
無料ブログはココログ
May 2021
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

Recent Trackbacks